書評 『会社訴訟・紛争実務の基礎―ケースで学ぶ実務対応』

三笘裕ほか編著『会社訴訟・紛争実務の基礎―ケースで学ぶ実務対応』有斐閣・2017

初学者おすすめ度:★☆☆☆☆ 星1
既習者おすすめ度:★★★★★ 星5

本書は企業法務分野弁護士による法学教室の連載が書籍化されたものです。そのため、“実務対応”と銘打たれてはいるものの、学生が読める内容になっています。

本書は、会社紛争の事例文とその解説を中心に、適宜補足的な内容をコラムとして盛り込んだ本です。教科書·基本書の類ではないし、事例文も決して短くはない(長いと2頁以上の事例もある)ので、初学者が読み進めるのは難しい気がします。事例文は問題の形式になってはいませんが、訴訟·紛争の事例であるため、私は適宜自分で「どのような手段を講じるべきか」や「請求は認められるか」等と末尾につけて問題集的に読んでいました。

私が思う本書の最大の特徴は、会社法の「使い方」が分かるようになるという点です。
本書は、多くの事例で、事件のフェーズごとに事例文が区切られ、その都度解説が入るという形になっています。

例えば、こんな感じです。
[事件(紛争)が発生するフェーズの事例文]

[それに対する解説(どのような会社法上の手段があるかの説明など)]

[訴訟フェーズの事例文]

[それに対する解説(請求が認められるかの検討など)]

このように、時系列に沿って分解されて説明されるので、事件を追体験できます。事件によっては、仮処分の申し立てなどの手段も用いられるので、そういった手段も含めて、様々な手段をどのように使うのかを事例と共に学ぶことができます。

その他、訴訟の解説で提出することが想定される証拠について記載されていたり、株主総会対応の話が記載されていたりと、随所で「実務」を感じることができるのも本書の特徴だと思います。


参考までに私が本書を使うことになった経緯も載せたいと思います。

私は、会社法が苦手で、予備商法2年連続Fでした。その他に自分が会社法が得意か不得意か分かる指標はなかった(強いていえば模試ですが模試の成績もよくなかった)ので、予備商法Fのみを背負って司法試験に挑むことになったわけです。
そこで、なぜ会社法ができないのか分析したところ、会社法の理解が、他の科目と違ってふわふわしていることに気が付きました。このふわふわしているという感覚をどうお伝えすればいいのか難しいですが、自分の中では、訴訟の流れ·訴訟の全体像が分かっていない段階で訴訟法の論点を勉強してもふわふわとした理解しかできなかったのと、現象としては似ているかなと思います。訴訟法において、各論点が訴訟のどの段階で問題になるのかを把握できると論点理解の精度が上がるのと同様に、会社法についても、頻出の請求が事件のどういった流れの中で出てくるのか(どのような場面で用いるのか)把握できると論点理解の精度が上がるのではないかと思い、本書を使うことにしました。

本書を読んで、事件を追体験できたことで、自分の頭で会社法上の手段を使う感覚を養うことができた気がします。その後、会社法の論点を復習する中で、論点理解が深まる感覚を持つことができましたし、司法試験でAだったので会社法苦手マインドも解消されました。


(私の周囲の受験生といえば学部生だったからかもしれませんが)本書を使っている人を見たことがないので、おそらく受験生シェアは高くないのかもしれませんが、だからこそ紹介したい一冊でした。

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