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酔っ払い伝説

今働いているクリニックの同僚Mは、首都ヌークのERをはじめ、グリーンランド中のありとあらゆる病院の救急外来で働いてきた強者ですが、男性看護師によく見られる、穏やかさと落ち着きのみでなく、いつ、どんな患者さんでも、というかスタッフや誰に対しても、いつもとても礼儀正しく丁寧に接する、とても素敵なナースです。

そんな彼の経験談は本当に壮絶で、特に酔っぱらいグリーンランド人の話(数えられないくらいある)が最高に面白いのですが、その一つをご紹介。

とある普通のグリーンランド人家族。
ある晩、夫婦喧嘩が勃発し、夫婦とも酔っ払っていたため、喧嘩もヒートアップ。
酔っぱらった亭主はナイフを持ち出し、同じく酔っぱらった妻の大腿を2箇所刺しました。
妻は家の外に駆け出し、大声で「助けてー!刺された!」と叫んで助けを呼んだのですが、しばらく叫んでも誰も出てこないので、諦めて家に戻り、また何事もなかったように夕飯作りに。

そのうち喧嘩も、刺されたことも忘れ(酔っぱらってたから)、家族団欒で晩ご飯を食べていると、突然警察と救急隊員がやってきて、酔っぱらい亭主を連行。
何がなんだかわからない妻は、「ちょっと!うちの亭主が何したっていうのよ!穏やかにご飯食べてるだけじゃない!」とパニック。
救急隊員はパニック妻を救急外来に連れていきましたが、縫合を受けている間も妻は、「一体なんなのよ!裂傷?そんなの全然知らないわ!」と憤慨し続け、治療を終え、プンプン怒ったまま歩いて帰って行ったそうです。

その後もMはグリーンランド人の血液凝固力の強さなどについて、淡々と話し続けていましたが、私はもう爆笑。

ちなみに私が今住んでいる、職員用のアパートには、Mも1年前に住んでいたそうで、うちの玄関前にやたらとフライパンだの鍋だのが落ちていて、そのまま雪に埋まっているのを不思議がる私に、
「ああ、あれね。隣家のグリーンランド人夫婦がある晩、酔っぱらって夫婦喧嘩してね。奥さんが旦那を外に放り出して、その後キッチンの物も次々放り出したんだよ。それ以来1年あのままなんだけど、きっと毎日外の鍋やらを見るたびに、あの日の熱いやりとりを思い出してるんじゃないかな。愛のメモリーってやつ?ふふふ」と。

色んな経験を積みまくって、もはやちょっとやそっとのことでは動じないM。彼のおかげで仕事もかなり楽しくやっていけそうです。

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