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言葉はきっと何かの始まり(1992年『素顔のままで』)

『素顔のままで』
(©フジテレビ/全12話/1992年) ︎

- 言葉はきっと何かの始まり -

【観た経緯】
米米CLUBの「君がいるだけで」はもちろん知っていたけど、この曲が主題歌だったこのドラマの存在はつい最近まで知らなかった。別の番組でチュートリアルの徳井さんが「この2人、『素顔のままで』みたいになったりせんかな」と楽しそうに話していたことで気になっていて、今年に入ってからFODの沼に浸かっているついでに少しずつ観ていった。

【ざっくりな内容説明と感想】
資産家の娘で、図書館司書として働く優美子(安田成美さん)と、高校を中退してからミュージカル女優を目指しているカンナ(中森明菜さん)。育ちも性格も異なる2人は、優美子がお見合いに向かう途中のタクシーで出会い、カンナが万引きを疑われたCD屋で再会し、熱を出した優美子がカンナに助けを求めたことがきっかけで共同生活を始める。

優美子の広い部屋を見て、なしくずし的に居候しようとしたのはカンナのほうだったが、「一緒に暮らそう? きっと楽しいよ」と声をかけたのは、平穏な生活こそが幸せだと信じていたはずの優美子。自分の夢がなかった優美子は、「なんだってカッコさえ付けなかったらできるんだよ!」と言い放つカンナの生き方と、夜の公園で見た彼女のダンスに感激したのだった。

嬉しいことは2倍、悔しいことも2倍で暮らす優美子とカンナ。一緒に住み始めた頃、「私は心に勢いがないのよ」と嘆いた優美子だが、カンナに「望めばきっとあるよ」と励まされる。優美子は朝から晩まで嬉しそうにカンナの世話を焼いているうちに、カンナを騙した男の頭にバケツいっぱいの氷水をかけるなど、次第に感情が露わになっていった。優美子の本来の性格を引き出したカンナもまた、自分に真っ直ぐ向き合ってくれる彼女との時間に安らぎを感じるようになる。

しかし、お互いに魅力を感じている反面でコンプレックスを刺激されることもあり、相手の発言が自分のトラウマに触れて傷ついたり、恋愛で衝突したりと、穏やかにいかない毎日を繰り返す。このドラマは、少しでもネタバレするとかなりつまらなくなってしまうのが難点。(先にWikipedia読むのは絶対ダメ!)

ちなみに、よく探さないとどこに出演しているのか分からない篠原涼子さんが、オープニングクレジットではデカデカと流れてくるところも要注目です。

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「どんなメロディーよりも、どんな言葉よりも胸に迫ってきた!」
第1話、夜の公園でカンナが踊る姿を見た優美子は、勢い良くカンナに感動を伝えるが、カンナには「あんたって詩人だねぇ」と照れ隠しで揶揄される。北川悦吏子さん脚本で共通の『ロングバケーション』でも瀬名くんが涼子ちゃんに言われていたけど、誰かに「詩人」と笑われても、その時の自分の思いを言葉にすることはきっと何かの始まりである。「感動した」「すごかった」「ときめいた」どれかに当てはめることができればいいけど、それだけじゃ表せられないもどかしさを見逃さないことが表現の第一歩。優美子が作った絵本も、誰かが作った音楽も、このドラマも、始まりは拙い言葉だったんじゃないかと思う。

優美子はその夜にカンナから貰った感情をずっと大事にしていて、長い時間をかけて表現し続けた。カンナや一也が作家として成功していく自分を妬んでいたと知る場面があるけど、優美子にとってはカンナとの出会いが全ての始まりなのだから、「元々、あなたからもらったものなのに」と悲しかったと思う。カンナや一也(東幹久さん)は好きなことに打ち込んでも評価に繋がらずに行き詰まっていて、私はその気持ちも分かるような気がするけど、誰かを大切にする気持ちには妬みも含まれるわけで、妬む自分が愚かなのではなく、そういう法則みたいなものだよなぁと感じた。

【印象に残っている登場人物など】
優美子とカンナに振り回され続ける、卓郎(的場浩司さん)と市村さん(鶴見辰吾さん)。この2人は「惚れたら負け」を食らいまくってるけど、最終話まで本当に思いやりがあってカッコ良かった。卓郎はこのドラマで唯一の察しが良い人だったので、一番頑張ってました。

そして一也、第1話で助けた子犬はどこに行ったんだよ!

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