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一寸の虫にも子育ての楽しみ
今一番ホットな長女との遊びは「しりとり」だ。単純なゲームも、年中児の語彙力に合わせるため選択肢が減り難度が高い。
たとえば、ハイレベル頭文字の筆頭「る」。こちら大抵「るすばんでんわ」か「ルビー」の二択で対応しがちだが、両者ともに長女のボキャブラリーに存在せず使用不可。
絶望的状況の頭文字「る」だが、お掃除ロボット「ルンバ」や「ルミナス(ふたりはプリキュアMax Heartより)」「ルージュ(YES!プリキュア5より)」のように、時代の流れや子どもの属性次第では新出単語が存在する。大人側の語彙力とひらめきが試されるのだ。
そんな愉快なしりとりの最中、わたしのターンで頭文字「け」となった。「けむし」というわたしの回答に対し、娘は
「けむしって何?」
幼稚園ブログで「いも虫からサナギ、そして蝶への羽化まで観察した」という保育報告を見たばかりだったので、てっきり毛虫も知っているものと思っていた。
因みに毛虫といも虫の違いだが、単に毛量の差によるもので、「成虫が蝶か蛾か」という区分ではないそうな。毛虫がみな必ず蛾になる訳ではなく、蝶になる毛虫もいるらしい。奥深きメタモルフォーゼの世界よ。
そんな訳で毛虫の説明を開始。
「幼稚園で、いも虫見たでしょ?ちょうちょになった…あれと似た形だけど、トゲトゲの毛がいっぱい生えてんだよ」
ふーん、と答える彼女の脳内では、どんな禍々しい生き物が思い描かれているのだろう。しかし毛虫に関して、これ以上の説明ができようか?
その翌日、娘二人に庭遊びをさせた。砂利や土を触る彼女らを横目に、わたしは寄せ植えのお花たちの手入れ。
すると、いた!!毛虫だ!!!
なんとタイムリー!!
「長女ちゃん長女ちゃん!
ちょっときて!いたよいた!
昨日のホラ、しりとりの!【けむし】!」
わたしの興奮が伝わったらしく、大慌てでやってきた娘たち。ビオラの花鉢を覗き込む。
毛虫にも様々なビジュアルがあるが、今回のそいつは、マットな質感の黒をベースに、体に沿ってオレンジ色の線が一本あしらわれている。トゲトゲは、根元はオレンジで先端が黒。どうみても友好的ではないその見た目は創造主のおふざけとしか思えぬ、これ以上ない「毛虫感」。抜群のタイミングでのお出ましである。
娘たちは、そのモジャモジャを興味津々で見つめる。幼児も本能的に危険を察知するらしく手は出さない。少しの緊張感の中、うねうね動き回るそいつから目を離せぬ様子。
わたしは、そんな二人の背中を満足げに見つめる。まさに百聞は一見にしかず、素晴らしき教育を成し遂げた気分だ。昨晩の説明から実物提示への流れ、完璧じゃないか。あたし今、「良い母親」かもしれん。
しばらくモジャモジャ毛虫を見つめた長女が尋ねてきた。
「ねぇどっちが頭?」
えっ?そりゃ進んでる方向が頭じゃないの?わたしもビオラの葉を用心深くめくり、改めて観察。思いがけずギャラリーの目に晒されている自覚があるのか、右往左往する(?)毛虫くん。
いつもならただの駆逐対象に過ぎないであろうに、娘たちとその動きを見ているうちに親しみすら湧いてきた。でも寄せ植えを台無しにされては困るので、そっと庭の外に逃すことに。学びの機会をありがとよ。
子どもと生活していると、目線が変わりまた違う発見がある。「一寸の虫にも子育ての楽しみ」なのだ。
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