「元カレのTシャツ」
「元カレのTシャツ」を捨てた。
正確には、「元カレのものと思われるTシャツ」だ。いつのまにか我が家にあり、わたしは買ってないし、持ち主であろう人物はもううちに来なくなってたし、だから「恐らく」。
まぁ要するに、どうでもいいのだ。たまたま棚から出てきて、着心地も良く何の思い入れも無いので、悪びれもせずここ数年夏の部屋着として世話になった。
今年の夏、そいつが急に生乾きの匂いを発した。潔くゴミ箱にほうった。
その瞬間、持ち主かもしれない人物が頭をよぎった。すごく嫌な気持ちだった。なにひとつ思い出を背負っていないのに、捨てる時だけ余計な事すんじゃないよ。何の落ち度もないTシャツに腹が立った。
そもそも、「元カレのTシャツ」なんて言葉がよくない、妙なエロスを漂わせている。いわく付きの代物である事すら忘れていたのに、捨てた瞬間そんな名前で呼んでしまった自分が悪い。家庭に収まり生活感に満ち満ちたわたしがそんな言葉を思い浮かべている事も、すこぶる気色悪い。
バツの悪さと不快感を胸に、もの言わぬTシャツに別れを告げた。
わかっている、独りよがりで身勝手すぎる感情だ。でも、もしかしたらわたしも誰かにとって、同じような存在かもしれん。自分の預かり知らぬところで、勝手に思い出して勝手に不快になられているかも、と想像したら、申し訳ないような気もするし、なんだかちょっぴり愉快でもある。
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