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ものを創り出すパワーの源【文学賞落選作品#5】

 ものを創り出すパワーの源

 私は幼い頃から、絵を描いたり、歌を歌うのが好きだった。歌については音楽教師だった母親の影響もあるかもしれない。しかし、音楽に関して厳しい教育をする人だったので、私が高校に入った時に将来の夢から音楽の道という選択肢を外してしまった。母親が口を出すことのできないであろう、美術を選んだのだ。
 
 絵を描く場合は勉強として「模写」をする場合もあるが、基本的には自分自身のオリジナルである。写真を見ながらそっくりに描いたつもりでも、必ず自分らしさが出てしまう。それが面白い。初めの頃は、私が好きだったルノワールなどの印象派やマティスなどの作風を真似て描いていたが、高校3年生になってガラッと変わった。誰かの真似をして描いた絵では人を感動させることはできないと気づいたからだ。
 
 それからは、苦しくても自分から出てくるものだけで描くようになった。しかし・・・。
 その頃の私はといえば高校3年生、ちょうど悩み多い年頃の上、家庭環境も複雑だったこともあって、とにかく自分が嫌いでたまらなかった。
 「なぜ、こんなに苦しいのに生きなければならないのか。」
 「なぜ私はこんなに可愛くないのか。」なぜ、なぜ・・・。と自問自答する日々。
 しかも、受験生というプレッシャーの中で描く絵はおのずと、そんな心の葛藤を映し出す鏡になっていった。
 
 特にひどかったのは自画像である。30年以上経った今でも思い出すのが辛いくらいに、自己愛と自己卑下が入り混じった、何とも言えないドロドロした空気感。しかし、不思議とそれを描いている時は確かに楽しかったのだ。何か、見えないものを形にしているような面白さを感じていたのかもしれない。これが「創造する喜び」なのだと思っていた。その「見えないもの」の正体が何なのかもわからないまま。
 
 それから10年が過ぎ、私はあきらめたはずの音楽に再挑戦してみようと思い立った。初めはもちろん、好きな歌手の歌をコピーして歌っていたが、そのうちもっとクリエイティブなことをしてみたくなり、バンドに加入してキーボードとコーラスを担当しながら、毎日コツコツと詩を書いた。いつのまにかノート1冊分にはなったが、この頃の私もやはり人生に悩んでいたから、それはそれは苦しい心の中を映し出す鏡であった。いわば、ネガティブな感情を「詩」という形を借りて吐き出していたのだ。
 

 詩を書き始めてしばらくした頃、人につけてもらった曲がどうしてもしっくりこないので、ついにあきらめて自ら曲を作り始めた。始めてみると、これまた楽しい作業だった。
 ひとつのメロディに合うコードはひとつとは限らないから、あれこれ試してみて意外な響きを発見した時の喜びはそれこそ言いようがなく、まるで天国の扉が開いたような幸せな気持ちになった。
 しかし、私の作る曲には共通した特徴があった。
 マイナーコード。つまり、暗いのである。

 それでも高校時代に描いていた自画像同様、その内容がどんなにネガティブだろうが、暗かろうが、作るのも演奏するのも楽しくてしょうがなかった。これもまた一種のセルフメディケーションだったのだ、と気づいたのはつい最近のことである。
 
 私はずいぶん長い間、「ものを創り出すのはネガティブなパワーである。」と本気で思っていた。実際そうやって、美術、音楽合わせて数多くの作品を創り出してきたからだ。
 ポジティブ思考や明るい曲を、どこかバカにしていたところさえある。しかし、半世紀を超える人生を通して何度も何度も繰り返す困難に、そろそろ終止符を打ちたいと考えるようになった。
 もしかして、私は「ものを創るために」ネガティブな経験を心の底で望んでいたのではないか?と気づいたのだ。ならば、生まれ変わるしかない。そう決心した。

 今、私は人から託された詩に曲をつけるという仕事に取り組んでいる。愛と希望に溢れた、人の心の優しさと深さを感じさせる素晴らしい詩だ。
 この話をもらった時は正直、自信がなかった。素直に明るい曲を作ったことのない私に果たしてできるのだろうか、と。

 しかし、この詩を前にしてキーボードに指を置くと、不思議なことに自然とアイデアが湧いてきたのだ。もちろん、明るいメジャーコードの。初めにスマホで録音したデモ音源を聴いた夫が涙ぐむ様子を見て、私は嬉しくなった。「この、詩がいいよね。」と夫はごまかしたが、曲の良さを認めてくれたのだということは、はっきりとわかった。
 
 やった。私にもポジティブな曲が作れるんだ。
 
 これが、生まれ変わった私のポジティブパワーで作った、記念すべき第1号の曲である。まだ世には出ていないものの、きっとこれがたくさんの人の心を癒す名曲になると信じてレコーディング作業に励む毎日だ。さて、どんな形でこれを作詞者にプレゼントしようか。

 彼女はどんな顔をして聴いてくれるだろうか。

※その曲が、noteで公開している『出会わせてくれてありがとう』です。是非お聴きください♪︎

♡♡♡素晴らしい詞を私に託してくれたR.Mさんへ、心からの感謝を込めて。♡♡♡

桑田 華名

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