そうだ、コンタクトレンズをつけよう

 コンタクトデビューをするために、眼科へ行って参りました。
 もう十年以上お世話になっている眼科で、数年前に白内障&角膜炎と診断され1ダースのヒアルロン酸点眼薬を処方されて以来、通院をバックレていたところです。
 いやあ、行き難い行き難い。怒られるかしら……嫌だわ……大人になって怒られるとへこむのよね……とビクビクしながら、受付にて「コンタクトを作りたいんですけど……」とひと言。
 喋りながら、コンタクトは作るのではなく検査をして購入するのだから、「コンタクトにしたいんですけど」のほうがよかったか? でも普段ずっと使うわけじゃないし、「コンタクトを使いたいんですけど」のほうが正解か? などとぐだぐだ考える。どれでもいい。
 初コンタクトでしたらこちらを、と問診票を出されたので、冷や汗と震えのなか記入。人がいる場所で字を書くのは相変わらず苦手。できるだけ隅っこで書いた。
 職業欄があったんですけど、ここは見栄を張ってもバレないべ……と思いつつ、しかしそれをするには良心の呵責が……ということで空欄で提出。特になにも言われなかったので、察してくれたのだと思う。すまぬ、無職だ。

 そして気球の絵を眺めたり、眼球に空気をぷしゅっとされたりしたあと、視力検査開始。
 画面に映し出されたCは当然見えたもんじゃないんですけど、前にツイッターかなんかで、わからなくてもとにかくズバズバ言えばいい。見えてるか見えてないかはちゃんとわかってる。的なお話を目にしたことから、とにかく諦めずに答えていく。
 とはいえ薄墨が落ちたみたいなぼやけしか見えないので、「み……みぎ……?」とか「ひ……うえ!」とか「あー……うーん……し、した?」みたいな感じになってしまう。
 だが前回0.02、今回0.06なので、間違いなく勘が冴えてしまった。まあ誤差でしょう!

 こういうことをしていると、学校の視力検査で一番上の文字が見えなかったがために見える位置まで前に歩かされ、周囲がざわめきに包まれるあの記憶が蘇ります。あんなん見えるわけないじゃん!
 今と違って眼鏡をかけている生徒は学年に五人いるかどうか、みたいな時代だったんで、なかなか珍しい光景だったんだろうなと今では思います。
 ちなみに一学年の生徒は百五十人くらいの学校でした。一クラス四十人とかの時代だよ!

 検査が終わり、次いで診察。怒られるかしら……とおどおどしながら、先生と対面。何事もなく目の状況チェック開始。
 これで目に傷があるとか言われたらコンタクトはお預けなんだよな……白内障進行してたら嫌だな……みたいな心配をしていたのですが、無事にコンタクトの許可が下りました。やりました!
 ここ一週間くらいこまめに目薬をして、寝るときもなるべく目が開かないように念じながら寝ていたのが功を奏したのでしょう。やったぜ!
 そしていよいよコンタクトの装着。どの会社のどのレンズがいいか相談しながら決め、練習用のものが用意されます。
 ちなみにどのレンズも取り寄せ&練習用すらない度数らしく、ちょいよわのものを使用することに。
 手際よく準備している看護師さんを眺めていると、「最初なんで私がつけますね~」と言われ、有無を言わさず瞼を開かれレンズをペタリ!
 怖がる隙もなかった! 気が付いたらもう目玉にレンズが張り付いていた。これがプロの技……残像さえ見えない……
 目にレンズが入ると、ぼやけた世界が明瞭に。まるで魔法のよう。
 なんか無意識に顔の横に手をやってしまうんですけど、驚くことに眼鏡はついていないんですね。体がもう、視界良好=眼鏡を装着していると認識しちゃってる感じ。病院を出るまでに十回以上やった。眼鏡は体の一部。
 眼鏡なしで世界がクリアになるのは、実に二十五年ちょいぶりです。視力の悪さはおそらく遺伝なので、幼いころより眼鏡っ子。この、裸眼(ではないが)で良く見えるという状況に、脳がついて行きません。

 ここで少しベンチタイムを置いて、再び視力検査。見える……見えるぞ……! 眼鏡が顔に乗っていないのに見える……!
 乱視のせいで若干ぼやけるも、乱視用のレンズは割高だし、乱視が強いのは右目で、利き目の左はそれほどじゃないから、そこまで強い違和感がなければ両目とも普通のでもいけますよ! との言葉どおり、思っていたより違和感なし。
「わー、すごく見えます。眼鏡付けてるみたいに見えます」と感動を伝え、そのまま着脱練習に。

 まずは手を念入りに洗う!
 外すときは、目をかっぴらいて、摘まんで、ずらして、外す。
 付けるときは、裏表を確認して、ふちをちゃんと立たせて、目をかっぴらいて、ど真ん中に乗せる。
 思いの外すんなりやれた(事前に動画とか見て勉強してた)ので、看護師さんに上手と褒められ年甲斐もなく喜ぶ私。幾つになっても褒められるのは嬉しいものです。

 私の人生、案ずるより産むが易しって感じの出来事がすごく多くて、かなり頻繁に「もっと早くやっといても問題なかったな。あの不安や悩みは無意味だったな」と思うことがあるんですが、今回もまさしくそれでした。
 しかもやってみればとても楽しく、物事を諦めていた惨めで情けない自分というものがひと回り小さくなったような気さえします。
 人生とは実は、探してみれば案外光り輝くものが隠れているのではないか。そんなことを思ったのです。コンタクトレンズを装着しただけなのに。
 人生観がちょっとだけ変わったね。この衝撃は生まれてはじめて飛行機に乗ったときと少し似てる。ほんの六年ほど前じゃ。
 こういう体験をね、今年はたくさんやっていきたいですね。できればリーズナブルな感じで……。

 そんなわけでせっかく新たな武器を手に入れたので、少なくとも週一くらいで眼鏡オフな日を作っていきたい所存です。

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