ばね指になった話

 去年ガングリオンで整形外科にかかり、18Gというなかなかの太さの注射針でブスっとやられ、ぎゅうぎゅうと猛烈にコブを押されながら中身をちゅるっと絞り出した。
 ぺぺっと塗られた麻酔は針を刺す時だけにしか効果を発揮せず、医者がグイグイ押してくる痛みにはまるで太刀打ちできていなかったせいで、非常に痛い思いをしたのをよく覚えている。痛すぎてちょっと愉快だった。
 お医者さんの話や調べた感じからして、再発しやすく何度かちゅるっと出す必要があるかもしれないとのことだったが、幸運なことに今のところぺたんこのまま無事腕を曲げ伸ばしできている。スッスッ

 が!
 一ヶ月ほど前から、あれっ? おかしいな? 変だな? という症状が手に現れた。
 そして三週間ほど前からは、朝に目を覚ますと右手の親指が動かない。詳細に言えば可動域が狭くなっており、一定の角度から先に伸ばすことができない。
 時間が経てば普通に動くのだが、その普通に動くようになるまでの数分~数十分が、なんとも苦痛。
 たとえるなら、膝とか股関節とか肘とか、あのあたりの関節が「ぽきっ」となりそうな感じがするのにどう動かしても妙な引っ掛かりばかりがあるだけでスッキリせずに「ぽきっ」とできないままもどかしくてもやもやしているときの、あの感覚。
 それを三倍くらい不快にして、微妙な痛みも添えた症状が続いている。
 実は勢いをつけてエイヤッとすれば動くけれど、その瞬間にパキョッとなり、ギエエッって言っちゃう感じなので、無理はしたくない。
 先日指のことを忘れていて、カーテンを止めているクリップを摘まんでしまい、その衝撃で悲鳴を上げた。骨が折れたかと思った。
 ちなみに私が人生ではじめて折った骨は尾てい骨。二度目に折った骨も尾てい骨。三度目はまだない。気を付けよう。
 痔といい便秘といい骨といい、私は尻の周りをもっと労わったほうがいい。

 さて、尻ではなく手の話。
 この痛みと症状はなんじゃろホイとちょいちょい調べてみれば、まあー出てくる出てくる、全国津々浦々にわたる整形外科のサイト。
 なるほどそんなにポピュラーな症状なのねと基本を押さえた堅実な右手に感心しつつ眺めてみれば、どうやらこいつはばね指というらしい。
 たしかに、動かしたときに引っ掛かりがあって、そこから伸ばすと勢いよくビョインとなる。付け根のチョイ下を探ればポリっとしたものもがあり、地味に痛い。主症状とマッチしている。
 ちなみに英語ではTrigger finger。やだ、格好いい……。

 私は暇なときにMSDマニュアルを流し読みする趣味があるので、そこでもちょちょっと調べてみつつ、最終的に日本整形外科学会さんのサイトを見て、「ははーん、わかりましたよ。今私の指の中でなにが起こっているのかが!」と膝を打つ。
 どうやら人間の指にはちくわ、あるいはドーナツ、もしくはポテコ的なトンネル状の鞘があって、その穴の中を腱がみょいみょいと移動することにより曲げ伸ばしできる、という構造らしい。足や尻から伸びた紐を引っ張ると体が起き上がる木のおもちゃみたいなあれだな。
 しかしなんらかの影響で炎症が起き、腱がちくわの穴に引っかかるようになると、スムーズな曲げ伸ばしができず痛みが出たり、ビョイッとなったりするということだ。ほほう。ひどいと動かなくなるらしい。怖い。
 とりあえず患部を使うな安静にさせろ、痛みがあったら冷やせ、おさまったら温めて血流をよくしてリハビれ。ストレッチせい。それで駄目なら注射もあるで。さらに駄目なら手術でドーナツを切り開くで、という疾患とのこと。たぶん。

 原因は不明だが、糖尿病やリウマチの患者、女性などに多いらしい。女性という部分にしか該当しない私は、どうやら指の酷使しすぎが原因となっている可能性が高いようだ。
 そう、これを書くためのタイピングだって指の酷使。
 暇があればやっている編み物だって指の酷使(多分これが一番の原因だと思う。3ミリくらいの太さの紙糸なんかをヒーヒー言いながら編んでた)。
 さっきやっていた服のダーニングや裁縫も指の酷使。
 好きなゲームや気に入った映画なんかについてを長々と手書きでノートにまとめるのも指の酷使。そもそもゲームが指の酷使。
 棚が欲しいな……と思い段ボールを切ったり貼ったり折ったりするのも指の酷使。
 運動したいな、と思ったときに適当にやる草むしりも指(というよりは手と腕)の酷使。
 読書でページをめくるのも指の酷使。
 私の趣味、指に負担かけすぎ……!?

 つまりこれはなるべくしてなった病。
 そしてこれだけ人生において依存している行為を休止するなんて到底不可能な話。
 イコール、多分このまま悪化していく。
 なんてこった……八方塞がりだ……。

 どうでもいいのだけれど、五年くらい前まで八方って前後左右上下と残りはどこ? 斜め? って思ってた。実際は方角的な意味の八方なのな……! 陰陽道の八方だ!
 陰陽師は通ってこなかったので知らなかった。どちらかといえば修験道を通ったタイプのオタク。
 あなたの九字護身法はどこから? 私はシャドウハーツから!

 さて、八方塞がりなわけだ。
 できることならポテコの切開は回避したいので、なるべく患部に負担がかからないよう気を遣っていこうとは思っているが、いかんせん指は日常的に使う。そして今も使ってる。なんならさっき編み物してた。夏用バッグを作りたいのだ。
 こんな現状ままでは自然治癒など到底望めず、ならば病院に行くしかない。
 予想ではステロイド注射をすることになるっぽいのだけれど、手のひら側からポテコを狙って打つらしく、もう想像だけでビクビクよ。針の太さは27Gとからしい。細い……逆に痛そう……。手のひらに注射てそんな。
 注射をされるのは嫌いじゃないけど、手のひらに刺すのは未経験だから怖い。なんとなく手の甲より痛いイメージがある。足の親指にするやつが人体で一番痛いという噂は聞いたことがあるから、それよりはマシか……?

 ///// ここまで受診前 /////

  くコ:彡 くコ:彡 C:。ミ

 ///// ここから受診後 /////

 簡単な問診&指の付け根付近をグイグイ押された結果、正式にばね指であるという診断をもらってしまった。
 一ヶ月くらいずっと続いていて、しかも悪化していると話したところ、じゃあ注射やねと。だよね、覚悟はしてたよ……。
 イソジン的なのをぽんぽんでぬりぬりされ、「ちょっと痛いよ」の声とともに刺される針。
 先生の言葉とは裏腹にだいぶ痛かったため、「おおお……おおう……うぬう……」と声が出る。
 こういう時、どういう声を出したらいいのかわからない。我慢しろって話かもしれないが、そんなのは無理だ。だいたいは「うおお……」って言う。
 そんな私の呻き声を聞いた先生「ちょっとじゃなかったねー」とお薬をシャッと注入。これがまた痛い。呻き声のおかわりが出る。
 これで治まるはずだけど、二週間しても改善しなかったらまたおいで、とのお言葉をいただき、診察室を出ようとしたところ、いつもの癖でドアの取っ手を利き手で握ってしまい、あまりの痛みで「痛ってえ!」と発してしまう大失態。
 口が悪いのがバレてしまった……先生と看護師さんに笑われてしまった……そして私も笑ってしまった。楽しんでもらえたのなら本望です。

 と、終始和やかなムードでなかなか痛い処置を終えたのはいいが、いかんせん注射の影響で手が痛く。
 会計待ちの時間でどのポジションが楽なのかを研究したところ、心臓あたりの高さで、手のひらを上にし、指を軽く曲げた状態でいるのが一番痛みが少ないということを発見。
 わかりやすく言うと「……雪だ」のポーズ。
 あるいは「なんだこりゃあ」のポーズ。
 ということで、バッグの持ち手を掴んでいるように見せかけて、実はなにも握らずに手のひらを天に向けているという不審なポージングで病院から無事帰還。
 注射後八時間は傷口を濡らさないようにとお達しが出ているため、絆創膏周辺を避けて手を洗う。痛い。

 というわけでばね指、症状も注射もどちらもなかなか痛いので、皆さんは指を大切に……。

 ところでどのくらいで効果が出てくるのかを聞き忘れてしまったのだけれど、最長でも二週間あれば効くはずだという解釈でいいんだよね……?
 まだちょっと痛いしカクカクは相変わらずだけど、信じるよ……医学を……化学を……信じるよ……!!!

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