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日常に埋もれて忘れていく

パッと目に焼きついた。そんな瞬間の記憶がある。日常のふとした光景に、心を奪われる時がある。

学生の頃、通りすがりに見た花屋のお兄さん。
片手に大きな花束を抱えて、エプロン姿の男性が道を歩いていった。

その人の雰囲気が、堂々としていて格好良く見えたのかもしれない。華やかな花の色が綺麗で、目を奪われたのかもしれない。
細かいことは忘れてしまったが、鮮やかな花束と、エプロン姿のお兄さんが格好良かった、という印象は残っている。

どこで見た景色なのか、花束の種類も色もお兄さんの顔も忘れた。けれど、その光景を見たことは覚えている。思い出は美化されるものなので、時を経て自分の中でいくらか捏造されているかもしれない。

あの時あの瞬間、通りすがりに見た人が強く心に焼きついた。それは記憶として、私の中にある。映画の美しいワンシーンを、日常で見たような感動。ささいなことなのに忘れがたい。

日常の、当たり前に過ぎていく景色の一部。
そこに思わずハッとさせられる瞬間が埋もれている。
その感動を忘れたくなくて、絵を描いたり、文章を書いたりして残そうとしているのかもしれない。

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