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許された気持ちになる物語

大島弓子さんの漫画が好きです。

ヘッダーの絵は「青い 固い 渋い」というお話の、印象深かった最後のシーンを思い出しながら描きました。文庫本の『ロスト ハウス』に載っています。

同居している恋人と離れようと思った主人公は、バス停だか駅のホームだかのベンチに一人で座っている。周囲の景色は、昨晩降った雪が積もっている。そこでたまたま、顔見知りの郵便屋さんに会い、「雪やんで、よかったすね」と声をかけられるという場面。

(実家に本を置いてきてしまったので、うろ覚えであらすじを書いてます。記憶違いがありましたら、ごめんなさい。)

その場面に到るまでのあらすじは、恋人と一緒に都会から田舎へ移住した、主人公の女性。近隣住民たちと打ち解けあえなかったり、都会の友人たちとのすれ違いがあったり……夢見ていた二人の生活は思う通りにはいかなくて。そんななか、衝突が増えていく主人公と恋人。主人公は自分がどんどん嫌な人間になっていく気がしている。

後に、近隣住民たちからの誤解もとけて和解するが、主人公にとってはモヤモヤを残したまま、はいそうですかと簡単には変われない。そこへ恋人に片思いする娘が現れたり、お互いに籍を入れないと誓ったはずの恋人に「結婚しよう」と言われたりして、主人公は気持ちがグチャグチャに乱れる。

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そこへ追い討ちをかけるような大雪が降り、それが主人公の心象風景と重なり、もう頭も心も真っ白になって、田舎からも恋人からも離れようと決意する。そしてヘッダーの絵のシーンです。

主人公は郵便屋さんの「よかったすね」という言葉を胸の内で反芻し、なんだか許された気がして、恋人のいる家へ帰ります。何でもない、些細なきっかけで、自分の中の何かが許されるという。

このお話がすごく印象に残っていたのは、自分で自分を許すきっかけが「よかったすね」の何気ない言葉だったこと。日常の、思いもよらない時、何の変哲もない言葉に、許される瞬間があることを描いているのが凄いと思ったからです。

思いがけず他者を通して、ふわっと降りてくる感情。許された気持ちになる物語。言葉にするならば「愛」なのだろうけれど、言葉では表せない。それを漫画で描いていることに感動しました。

大島弓子さんの漫画の数々。その作品の優しさに、心の内の柔らかい部分をすくいとってもらえた思い出。懐かしくて、読めて良かったと思います。

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