未来を見るのは簡単だけれど、今日を生きるのは思ったよりも大変だ〜璃月〜

半年記念日に合わせて、彼が海の見えるレストランに連れて行ってくれた。
彼なりのサプライズだった。

付き合ってから、前々に予定を立ててお出かけしたことは数回。
最初から徒歩10分のところに住んでいたし、そもそも毎日どちらかの家で寝泊まりしていたことから、計画を立てる必要がなかった。
大抵の休みの日は、
朝のテレビ番組で特集している美味しそうなものに感化されて、それを目的にお出かけするか、
お家でダラダラ映画を見るか、近場を散歩がてら開拓するか。
手の込んだ料理を作り、お家でなんとかパーティーをするとか。

旅行をカウントしなければ、記憶にある限り前回は3回目の遠出デートだった。
それでも決めたのは1週間前。
彼の3連休を狙って、私が誘ってみた。
はじめはあまり乗り気でないようだったので、これは延期かな?
と思っていたのだが、
数日後、会社から帰ってきた彼が
「今度どこ行こうか、仕事中考えちゃった!楽しみだね」
というから、安心して私も楽しみにしていた。

とはいっても、出会った頃から
「サプライズは苦手だから、期待しないでね」
と言われていた私は、心底驚かされた。引っかかった。
サプライズ大成功だ。


何か会社帰りにお土産を買ってきてくれた時は
わかりやすくニコニコしていて。
本人は隠している気らしいので、私も気づいていないふりを毎度している。

ちなみに、ホワイトデイの時なんか
”Cacao chocolate”と書かれた袋を片手に、待ち合わせ場所で手を振っていた。
その割にすぐ渡してくれるわけではなく、
自分の靴紐が解けたタイミングでは
持っていて、と私に渡してくる始末。

大抵のことは2人で話し合って決めてきたし、
2ヶ月後に控えた誕生日くらいは贅沢をしたいね、どこがいいかな
なーんて話もしていたばかりだから、
彼が秘密でこっそり計画をして、何かをしてくれるなんて思っていなかった。


夕陽の見えるレストラン、テラス席有、フレンチコース、オーガニックワイン
検索をかけて、良さげなところを片っ端から電話したらしいが、
そもそも予定を立てたのは1週間前、金曜日の夜だった事もあり
予約を取るのは中々大変だったようだ。

1日中歩き回って、正直クタクタだった私。
「夜ご飯は、ラーメンくらいでいいかな」
と私が言った時は心底焦ったという。
夕方立ち寄った海辺で、走り回って、そろそろ帰ろうかという感じだった頃、
「ちょっと行ってみたいお店があってね、
17時半には開くみたいだから行ってみようよ」
という彼の一言で、その言葉通りに私が受け取ってよかった。

梅雨時期だった事もあり、
テラス席を予約してからは毎日お天気アプリと睨めっこ。
念願のお天気日和で安心したものの、
午前中は空が曇っていた事で、夕日が見えないかもしれない。
それに、璃月が違うところに行きたいって言ったらどうしよう。
初めての場所だし、予約の時間に着かないかも。

なーんて一日中ソワソワしていたらしく、
無事、予定通りレストランに着いたら安心したのか、
ここまでの経緯をぜーんぶ話しちゃう彼。
秘密にしておいてもいい事まで話しちゃう、正直者のいつもの彼だ。




50:50で異動するかも、の発表があった最近。
結局異動はなかった。
というか今年はなかっただけで、来年か再来年にはあるだろう。
若いうちに地方で学んでこーい、というキャリアプランらしい。

どちらの可能性も考えて、なんとなくの想定をつけていた私だが、
本当のことを言うと、
今年異動して、そのついでにもう少し広い部屋に引っ越しして、私も新しい地で再スタートすることを望んでいたのかもしれない。
その証拠に、異動ではないと話を聞いた帰り道、整理をつけようとしたものの頭が混乱しすぎて。
人生でここまではないというような過呼吸を起こした。

今まで、節目節目で、その地を離れてきた。
大抵、その地で起きた嫌なことから逃げることが目的でもあったが。
大学の時も、在学中も、就職の時も。
国内外問わず、新しい地で再出発することを求めてきた。
今と同じ部屋、同じ地域、同じ環境で、新しい一歩を踏み出す勇気はなかった。環境の変化に頼っているような気もするけれど、そうやって生きてきたから。

今年は異動ではない、という事実。
私の心情とは裏腹に彼はホッとしているようだった。
引っ越しして、約1ヶ月。
新しい生活にもようやく慣れてきて、仕事も楽しくて。
異動でなくてよかった、らしい。


「少なくともあと1年、長ければ2、3年とこっちに住むことになりそうだし、
もう少し広い部屋に引っ越したいんだけれど、どうかな」

困った顔をされるのは承知で、私は彼に相談を持ちかけた。
例え1年だったとしても、この狭い空間で、大した区切りもなく、
鬱々とした生活してを送るのは嫌だった。

そんな中、彼が働いている自分と働いていない私を無意識に区別していることが気になっていた。なんとなくだけれど、言葉の節々に出ていた。
新しい地でそろそろ働き始めたい、そう思っている自分がいた。

それに、1人で過ごせる空間、逃げれる部屋がないまま2人で過ごし続けたら
お互いが嫌になるのは目に見えていた。それだけは、嫌だった。


上に書いたような理由は言ったものの、
彼は案の定、困った顔をした。
お金がかかることで、大変な思いをしてようやく引っ越したばかりとを終えたばかりで。決断に決断して、頭をフル回転させてようやくここまできたのだ。
当たり前だ。

考え込んだあと、彼が首を縦に振った。
「将来への投資だね。引っ越そう」

彼は続けた。
「あと、働き始めるのには賛成だよ。少しずつリハビリとして、ね。
もし、区別されていると感じたなら申し訳ない。そんなつもりはないよ。

あのね、ここ1、2年は璃月にとって大切な期間だと思う。
もっともっと、長い目で考えてほしいんだ。
目先ではなくて、20年とか、30年とか
1番怖いのは、前職と同じような形でつまずくこと。
今度は本当に取り返しがつかないことになるよ。それは絶対に嫌なんだよ。
例え、一時的にもらっている手当を下回る収入だったとしても、
それに見合う生活を送ればいい。
それよりも大袈裟だけれど、やりたい事もあるのに、一生働けなくなる方がよっぽど困るじゃん。そうしたら元も子もないんだから。
仕事より、俺より、何よりも絶対に自分を大切にすることを約束して」


そんなこんなで、まだ引っ越し時期は話し合い中ではあるものの、
引っ越すことを決めた。


こんなことがあった3日後の彼からのサプライズ。

1Kで2人で住み続けるのは確かに現実的ではないものの、
早く新しい地でアルバイトにでたい、
なるべく遠くに引っ越したい、
という私のタイミングによるわがままに振り回されても尚、将来を真剣に考えてくれる彼には感謝している。

こんな未来は予測していなかった。
レストランの帰り道、その幸せな時間が終わってしまうのが嫌で泣いた。
次の日の朝には「やっぱり幸せすぎる」と泣き、
その次の日の朝には「もしかしたらこれは私ではないかもしれない」
と寝ぼけながら泣いた。

彼は笑っていたけれど、
3日間にかけて涙を流すほど、私は嬉しかったし、
今もまだ、信じきれていない。
俗にいう、”もしかしたら悪い夢でも見ているのかも”と思うほど(合ってるかな?)だったりする。

まだまだ悩みは耐えないし、考えることも多いけれど、
一つひとつ、乗り越えていくしかないのかな、
と開き直ってきたここ数日。

今日も今日とて、何ってない交換日記だけれど、
私にとっては結構しんどかった時期でもあり、
一件落着に安心したのか、その証拠に微熱で起きた日曜日の朝。
体調悪いって言っている人に、ちゃんと温めて食べるんだよ、
と焼きそばを置いていくのは不思議だが、

そんな彼にこれからも、(今のところ)私はついて行こうと思う。


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