小説 僕は商社マン その7 関本ぶりき

「その話し長くなるぞ、明日ははやいが牧田ちゃんいけるの」
「そこまで長くはないでしょう」
「話しを長くさせないためにはちゃちゃをいれないことやね」
「お前営業マンやのにちゃちゃがわからんか、ちゃちゃがわからんかったらどうにもならんぞ」
「私もちゃちゃってわからないです」
「欽ちゃんの番組からでたアイドルや」
「は」
「は」
は、を同時に言える関係というのはなかなかの域ではないか。

「わたくし生まれも育ちも葛飾柴又なんてことをはじめると話しが長くなる。ま、生まれも育ちも八尾なわけでありますが、高校を卒業して、鉄工所に就職したのですが、3月くらいで会社を辞めたのです。ここから私の転職の歴史がはじまるのだが、ま、再就職にてこずりまして、一年ぐらい労働というものから身をひいてテレビみるか漫画を読むかの生活、ほぼ生産的活動を行うことなく、ま、風呂の掃除やら犬の散歩ぐらいはしましたが、風呂の掃除、犬の散歩でおまえの一生を終えるのも悪くないなあなんて考えておったところ」
「厚木さん、すんません、私明日はやいんで話しかいつまんでくれますか」
「明日の労働内容は牧田ちゃんも俺も一緒やろうが6時集合やろ、あほみたいになあ、それはそれとして、おまえら急に人よんどいて挙句話しかいつまんでとは何事や。どうせここの支払い俺にさせるつもりやろ、あのな、牧田ちゃん、あなたがしたたかだってことぐらい俺は重々承知してるぞ、まそれはさておき、俺のおじさんというのがね、軽トラックでスーパーの前で焼き鳥売る商売あるがな、そう、それ、あれ、ああいう会社の社長やってたのよ、創業者や、でそこそこ金もってたわけ、月に一回海外旅行いくぐらいには羽振りよしなわけ、経済的成功をおさめた者がやることってのは決まっていてね、自伝を書くか、選挙にでるかだと相場はきまっているわけ、で、おじさんが衆院選にでたわけよ。その時、俺はちょうど失業者やったこともあって選挙の手伝いにいかされたの。事の新装てのはわからんがどういうわけか与党から出馬したわけ。で、当選したの。いわゆるどぶ板なこともたくさん手伝わされたよ、老人ホームまわったりね、そういう効果があったのかなんなのか、そりゃ多少はあったうやろうけど、おじさんその党の方針があわんかったのかそうそうに離党して、それから参議院も衆議院も選挙あるたびにでた。無所属で。ずっと落選してたね。計5回ぐらい手伝ったかな。
それと並行して俺の転職歴は続くのだが、イベント会社の面接うけた時、選挙の手伝いしたことがあるって話をしたら、それはいいなってなってね。選挙プランナーまではいかんが、ま、機材のことから選挙カーの運転、ポスターの発注はどうするかぐらいはしってるわけやん。いろいろいろ関西のどこかで選挙があるってなったら営業かけさせられた。党から推薦や公認がついてる候補者にとっては俺は用無しやけど、ま、いわゆる泡沫といわれる人は俺の口車にのることもあるわけや。
で、わかったよ、いくら膝をうつような政策をもっている人でも権威が後ろになければまず落選する。憲法とジークンドーの違いがわからないような奴でも母体がしっかりしてたら議員になれる。もしくは自分自身が権威であるか、例えば木村拓哉が選挙でたらたぶん当選するわな。そういうことや。だいたいの人間は木村拓哉やないから、党が必要なわけだ。あのあほぼんは、テレビによくでている人気者が神輿の上にいる党から公認もらってでてるんやから、当選するよ」
牧田さんの顔がだんだん曇ってくる。あんなあほが議員になるのはどうかと思うが、そこまで沈まなくていいだろう。
「あの、、昨日、例のごとくあのあほと12時ぐらいまで呑みにつき合わされたんですよ」
「な、プレハブの中いつも朝酒臭いもんね、二人で呑んでたん」
「いや、スタッフの人に無理言って残ってもらいましたけど」
「誰」
「さすがにさん」
「ああ」
さすがにさんとは党から派遣された党員のおじさん。「それはさすがに」が口癖のおじさん。
命名者はおきょうちゃんだ。
「で、さすがにさんが帰って私も帰ろうとしたら、あほぼんにひきとめられて、相談があるって、またしょうもない話しで長くなると思ったら、これがそのしょうもないというかなんというか、そのう、たいがいな話しで。あいつ人脈がどうとかかんとかで出馬することになったとか言ってますけど、結構な条件飲まされてるんですよ、あの、おっきい声ださんといてくださいよ、この会社の株の51パーセントを手放すという条件のんだ上での立候補らしいんです、つまりあいつが持ってる株の全部。で、あいつが議員になったら、その株は党のつながりのあるリゾート会社にわたることになってるらしいんですけど、その約束をとりかわしてるのにあいつ向こう10年ぐらいは別に影響ないと思ってたらしいんです。株主が変わったら大変なことですけど、あくまであいつの中では、なんですけど、ただの昨日のヤフーニュースみたら、、、、、、、、、、」

ありうる話しだ。ありうるもありえないもないか。事実だろう。そういうことを仕掛けてくるぐらいは想像に難くない。ゆくゆくは万博をするたら、カジノをするたら、既得権益を潰す理由は新たなる既得権益をつくるからに決まっている。とはいえ、いくらいっても大阪市の隣町、そこまでのうまみはないようなものだが、ここにきて昨日のニュースだ。
仁徳天皇陵が世界遺産になる可能性が濃厚に。
リゾート会社があの場所を更地にしてホテルを建てるのかどうかはわからないが、ホテル以外にも使い道はたくさんあるだろう。あの会社だけではそこまでの敷地にはないが、隣のパチンコ屋も高野商事の土地なのだ。

「であいつはみんなにとって何が一番だろうかってずっと考えてたらしいんですよ、あくまであいつの中でですよ、で、あいつの中での答えは選挙に当選したらそうそうに高野商事を倒産したことにして終わりにするってのが一番いいんじゃないだろうか、っていうんですよ、あいつの中でですよ、何が一番かはわからないですけど、二足のわらじは政治に失礼でしょとかいいだしてね、党の人間に何を吹き込まれたはしれませんけど、計画倒産てそんな簡単にできるんですか」
さあ、どうだが、あいつの力では何にもできないだろうが、あいつの横には奥さんがいる。あの専務はなかなかの喰わせものだ。どうすれば自分たちが損することなく終わらせることができるのかの案の一つや二つ持っていると考えるのが当然だろう。
「吉田、年上の女ってのはちゃっかりしてるぞ、落合夫人もしかり」
「なんですか急に」
「じゃあ、ま、そういうことか、ま、教えてくれてありがとう、とりあえず帰ろうかもう11時や」
「あ、ちょっと相談したいことまだ離せてないんですけど」
「え」
「私、あほぼんが議員になったらスタッフになってくれいわれてるんですけど、どう思います」
「うううううん、悪いってことではないかもしれんが、どうやろ、どうやろ、ま、さ、ううううううううん、まあな」
「僕は反対なんですけど、僕がそこまで言える問題やないと思うんですが」
「そんなことよりお前はどうするの、端的に言えばこの会社は泥船やぞ、極端に言えば選挙終わって3月もしたらたたむ準備するかもしれんな。他にあいつが新たに土地をかりてどうのこうのするほどの男やないし、行ってみればあの土地をリゾート会社に売って金を得たらそれ以上知ったこっちゃないて話しやろ、今先代は老人ホームにおるっていうやないの、好き勝手にしよるぞ」


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