江國香織の恋愛小説を思春期に読むことの弊害

持論だけれど、大人になってからの恋愛沙汰は思春期の時に触れてきた創作物にかなり影響を受けると思う。

私が一番最初に手に取った恋愛小説は江國香織の「神様のボート」で、これは表向きは母娘のヒューマンドラマなのだけれど常に、常に失踪した父と残された母の狂おしい恋愛の香りが見え隠れしている。失踪した愛する夫のいない土地に馴染むわけにはいかないから、と母が娘を連れて引っ越しを繰り返す話である。羊の皮を被った狼だ。あんなものを児童書の棚に置くんじゃない。
これをまだ脳がやわらかい小学5年生の時に読んでしまったが故に、今の自分の恋愛事情が形成されたといっても過言ではない。パパとママは昔「骨ごと溶けるような恋」をしてあなたが生まれたのよ、なんていうセリフは小5の少女が普通に受け入れられるものではないのだ。
自分にも度を失うほどの「骨ごと溶けるような恋」が訪れると思ってそわそわ半分恐れ半分だった日々が懐かしい。(そしてそれはちゃんと訪れた。しかも何度も)
彼女のおかげで私の中では愛と破滅のイメージがぴったりくっついている。

彼女の小説は登場人物の心情が丁寧に描かれる故、全員が道を外れていてもなぜか受け入れられてしまうのだ。
浮気、不倫、嘘、未成年淫行など、世間では悪とされる振る舞いがごまんとでてくる。でもなぜか下品さや嫌悪を感じさせず、不思議と全てが孤独感とかなり重めの愛によって綺麗にまとまっている。おそらく彼女にとって、それらは愛の前にはあまり重要な問題ではないのだ。
相手へのデカいラブが根幹にあればもはやどんな不義理を働いても瑣末なこと、という価値観。
知人でこれを読んでいる人はそろそろわかってきましたか。ここが恐らく私の源流のうちのひとつです。

そこから江國香織の恋愛小説をいくつか読み、なぜかそこからサガンの「悲しみよこんにちは」や「ブラームスはお好き」「愛は束縛」などを読んだので、中学生にしてすっかり破滅思考でブレーキの利かない女になってしまった。
当時流行っていた携帯小説も楽しく読んだが、あまりに愛に重みが足りなさすぎるのだった。

江國香織評では、サガンの小説は「お酒をたっぷり吸ったブランデーケーキのような恋愛小説」だという。
信じられないほど濃厚で、絶対に身体に良いわけがないけれど麻薬みたいにウマくてやめられない、みたいな意味だと思う。わかる。
たまたま私は自分を蔑ろにするような相手を好きになってこなかったし、不倫などにも縁がなかったのであまり恋愛感情がマイナス方面に振れることがなかったけれどただそれだけだと思う。
こういうものをずっと読んできたので、信じられないくらい美味くて身体に良いかはさておきやめられない、日々の雑事が全ておざなりになる、そして同じだけの情熱を相手にも求める、が私の恋愛になってしまっている。明らかに恋愛で身を崩すタイプである。

私が空いてる時はいつも隣にいて!私を何よりも優先して!いつまでも一緒にあそぼうよ!正しいか正しくないかみたいな話しないで!ちゃんと地獄までついてきて!いつも100%味方でいてよ!!!が本音だ。
もちろん私は同じことを相手にできるし、本気でそう思っている。その瞬間は。
私に言わせれば恋愛で成長しようなんて愚かな考え、恋愛エアプ、ド素人、とんだフェイク野郎だと思う。恋愛関係にある人間と一緒になるというのは楽しく甘美である一方心身ともにはちゃめちゃになるということだ。破滅の道を共に来てくれるやつじゃないと嫌。
だってこちらはチョコスプレーとバターとバニラでできたどっしり系のクッキー、ニンニクマシマシアブラカラメのラーメンなのだ。だんだん胃が疲れて食べられなくなるけど一口目二口目はめちゃめちゃ美味い、みたいな方面でやってきた。栄養バランス?バカ言っちゃいけない、嗜好品なんだから!そんなのうちにはないよ。ヨソ行ってくんな!

でも一応常識のある大人のふりをしたいので人前でそんなことは言わない。好みのタイプを聞かれても「ん〜ちょっと神経質で賢い男の人がいいかな♡」とか言っている。社交性だ。

でも友人たちは私のイカれたパッションを知らなくていい。お前らにとっては味噌汁やおかゆでありたいと思っているので怖がらないでください。
あと江國香織の描く小説のこともどうか怖がらないでほしい。ここまで人のせいにしておいてなんだけど、私の変な破滅思考と愛着の強い側面があれらに怖い感じでガッチリ噛み合ってしまっただけで、彼女の小説が悪いわけではないんです。多分。
弊害、と書いてしまったけれどこれは間違いなく私のよいところでもあるんだと思う。
最近そういう破滅を伴った情熱が訪れていない。穏やかでよいことではあるが少し寂しい気もする。

なんでこんなことを急に書いてるかというと最近ヌルい失恋をして微妙な気分になってるからだよ、わかりやすいね。ヌルい恋愛などもうまっぴら!生きている限りパッションと破滅を求める旅は続くのだ。

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