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最近のお気に入り短歌

最近出会った好きな短歌、気になった短歌について、ひたすら感想を書きます。

ではさっそく一首目。

星を見るための扉をひらくとき君のひらいたままの両耳

荻窪メリーゴーランド第2回より、鈴木晴香さんの歌。

ああ、そうだ、目は閉じることができるけど、耳は閉じることができない。
鈴木晴香さんの歌にはこういう発見があって好きだ。ハッとする。

星を見るための扉、屋上へ行く扉かなあ、それとも閉じていた瞼を開くときの比喩か。
いずれにせよ、目は能動的に閉じたり開いたりすることができて「君」の意思に左右されているけど、耳は意志に関係なくいつも開いていて無防備。
その無防備な部分を見ている作中主体は、これまでにはないくらい近くで君を見ているし、もっと近づいてもっと無防備な部分を見たいって思ってるんじゃないかな。

恋の序章の歌。
しかも、ろうそくみたいに小さくじんわりと灯る火というよりは、ふらつきながらメラッと灯る火という感じがして好きです。


続いても荻窪メリーゴーランドより。
この連載とてもわくわくヒリヒリする。

どの恋もきみにやさしくあるための予習だったな 十の深爪

第9回より、木下龍也さんの歌。

「十の深爪」が刺さる。これ本当に大好き。

作中主体はいろんな恋をしてきたのだろう。
その中で、相手を傷つけたこと、傷つけられたこと、たくさんあっただろう。

「十の深爪」というのは、全ての手の指の爪が深爪になっているということ。
一本だけじゃなく、抜かりなく全部。
きっと過去に、爪を切っていないせいで相手を傷つけたことがあったのだろう。
また、他にも自分の詰めの甘さや余裕のなさが苦い結末を迎えたことがあったのかもしれない。

でもそれも今は完璧に学んで、完璧な状態できみに会っている。
意図的でも意図的じゃなくても、とにかくきみを傷つけたくないのだという意志を感じる。

しかし一方で、ただ爪を切るだけじゃなくて深爪になってしまっているから、ちょっとやりすぎな感じもする。
これが本番だ、このために生きてきたんだ、というくらいの切実さがある。
そのくらいこの恋を大事にしたいのだとは思うけど、若干の重さや必死さが感じられる。

それと、これは深掘りしすぎなのかもしれないが、十から十字架のイメージが浮かんで、誓いとか戒めの意も感じた。
これも主体の気持ちの重量をグッと増やしている要因だなと思う。
はじめはひらがなも多くてちょっとふわふわした恋をイメージさせてくるから、余計に「十の深爪」がズシンとくる。

かっこいい歌。刺す歌。本当に好き。


最後に月刊うたらばの採用歌より。

土砂降りが窓にあたっている今日も誰かのハッピーバースデーかよ

鈴木ベルキさんの歌。
3月のお題「土」で採用されていて、すごい好きでした。

土砂降りが窓に当たっているという光景は何度も目にしたことがあるけど、確かにあの日は誰かの誕生日かもしれなかったんだな。
家にいるしかねえな今日、という日も誰かにとっては特別な日で、その発見がすごく面白い。

「ハッピーバースデー」という言葉が更にいい。「バースデー」に「ハッピー」までついている。
またこれが「誕生日」とか「生誕記念日」とかだったら印象が全然違う。
「土砂降り」という暗い情景と、「ハッピーバースデー」という華やかで特別で浮き足立った表現とのテンション差。
それがこの歌全体の「おいまじかよ…」感を強調していて好き。

実際この土砂降りの中で誕生日をお祝いしている家族の様子も想像してしまう。
考えたことなかったけど、世界のどこかにはそういう光景があるんだよな。


とりあえず今日はここまで。
好きな短歌がたくさんあって困る。
読むのも詠むのも楽しい。

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