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被災地ってなんだろうか

8月14日から26日まで2週間、能登半島は珠洲市高屋町にフィールドワーク兼友人を訪ねてお邪魔しました。1月の発災時から関係性を続けながら、珠洲にお邪魔したのは今回が3回目。ただ、これまでは1泊2日の短い滞在だったので、生活を共にするような滞在はこれが初めてでした。

泊めていただいたお家。1年後には公費解体されてしまう。

はじめましての方に簡単な自己紹介をすると、現在、災害、特に「被災者性」「現地支援者」をキーワードに修士論文を執筆しています。

被災者という言葉が持つ力はなんなんだろうかということを知りたかったのと、友人が、被災者でありながら支援者側にも回るというポジションを担っていたので、その実態を掴みたくて研究テーマにしました。とはいえ、すごく意思を持ってこの研究を始めたわけではなく、本当にたまたま波が来て、気付いたら乗っていたというような感覚です。

また、被災地を訪れるという経験としては、岡山の真備地区で起きた洪水。1日だけボランティアに関わらせてもらったことがあります。その後、福島の浜通りで活動されているengawanoieという場所に指導教員を通じてご縁ができ、2度訪れました。(浜通りでの体験はこちら

そんなこんなで、ちょくちょく被災地と呼ばれる場所に足を運んできたわたしですが、まさか自分が災害をテーマに研究することになるとは思っておらず、人生って不思議だなという感じです。


被災地と呼ぶことへの戸惑い

関係性が続き、少し経った頃から、能登や珠洲、もしくは高屋という場所を「被災地」と称することに戸惑いが生まれ始めました。たしかに、地震が起こって、建物、道路、あらゆるところが壊れていて、亡くなった方もいる。しかし、わたしは、もう高屋のことを被災地と呼べなくなっていました。

とはいえ、もちろん、被災後ならではの仮設住宅の問題、若者が福祉の網の目からこぼれ落ちてしまう問題など、毎日いろんな課題は現れます。そのような問題も2週間、毎日一緒に見聞きしていて、怒りたくなったり、憤りを覚えたりも、もちろんある。でも、それは「被災地」だからではない。目の前で友人が、お世話になっている町の人が困っている。ただそれだけの関係になったんだとはたと気付きました。

逆に、多分、対外的に声を上げるためには、被災地というキーワードを掲げて対処した方がいい問題もある。

しかし、被災地っていつまで被災地なんでしょう。もしくは被災者っていつまで被災者であるべきなんでしょう。きっと、その言葉は社会の側やひとりひとりにある意識が作り出しているのではないかという気がします。(こんな曖昧な表現は論文には書けないけれど)遠くにある/いるよく分からないものだから、被災地や被災者と呼んでしまう。隣に本人がいたら、その人のことは、安易に被災者の〇〇さんとは呼べないんじゃないかななんて考えていました。

大きな声では言えないおもしろい話

ここからは、読む人、立場、経験によって、不謹慎だと捉えられてしまうかもしれない内容です。なかなか大きなメディアや公式な情報としては発信できないけれど、わたしが見聞きした極めて個人的な体験を記録しようと思います。

わたしの感想として、被災地にはギャグみたいなことがたくさん起きていました。避難所が楽しかったからと言って同窓会を開いている人がいたり、失礼(すぎて笑えてくる)極まりないインタビュアーがそこら中にいたり、平常時は隠れてしまう人間の極限の性みたいなものがいいこともわるいことも噴出していて、なんだか濃縮還元みたいな場所だな〜〜と思いながら日々を過ごしていました。

飯田にある「いろは書店」の八木さんはめちゃくちゃおもしろくて、わたしの被災地へのイメージを変えてくれた貴重な人物でもあります。被災生活をおもしろがる工夫が、このYoutubeに出てくるので、ぜひ見てみてください。(支援物資の配布コーナーに鳥貴族とか磯丸水産とかユーモアたっぷりのアイディアが出てくる。わたしも被災したらやってみようと思った。)

戸惑いをさらけだす

正直、笑っていいのか分からないギャグもあったり、実際、全壊のお家や割れた道路もまだまだあったり、なんなら、8ヶ月経った今でも避難所で生活する人もいたりします。

だから、悲惨だとも、問題ないとも、簡単に割り切れないことがたくさんあって、一言でこんな状況だったよとは説明ができないのが正直なところです。でも、そんな葛藤や戸惑い、あらゆる側面を、このように個人が共有していくことが、能登を「被災地」から、能登、珠洲、高屋など、固有の名前があるものだという認識に戻していってくれるんじゃないかなと思います。

誰だって、どの場所だって、いい面ばかり、悪い面ばかりではないのは、一緒です。だから、被災地という簡単な言葉で、その土地の奥行きやひとりひとりの生きる姿を奪わない。ただ、耳を傾けて、隣を一緒に歩く。そんな感覚があれば、もっと、これから豊かな土地になっていくのではないかと感じました。

わたしが、ただ、友人に聞かれて答えられることは、「高屋めっちゃおもしろいよ」みたいなことな気がします。ここで過ごした2週間は、とにかく毎日が美しくて、おもしろくて、とはいえ、ちょっと復興政策に怒りも湧いてきたりして、それでも、ご飯はとにかくおいしくて。高屋という町の個性を存分に浴びた時間だったなと感じます。

行っていいのかな、不謹慎じゃないかなと思っている人は、あまり気負いしすぎず、かと言ってズカズカと入っていくのでもなく、被災地としても捉えながら、同時に他の何ものでもない固有の場所として訪れる姿勢くらいの塩梅がちょうどいいんじゃないでしょうか。

迷ったときは、聞けばいいんですよね。こう言われて嫌じゃないかとか、何が嬉しいかとか。被災地や被災者になった瞬間、気を遣いすぎたり、遣われすぎたりしてしまう。目の前の人と会話をすることを忘れて、役割の中に生きてしまう。そういうことがいちばん回復を遅らせてしまうことなのかもしれません。

とにかく高屋に来てください

誰でも来てくださいってわけじゃないんですけど、まず、どこから行っていいのか分からないという人は、ぜひ高屋をおすすめしたいです。(友人知人はわたしまで個別にご連絡ください。)

能登半島の端っこにあって、珠洲の人でも、高屋って地名は聞いたことあるけど行ったことないという人がほとんど。だからこそ、そこに広がる固有の美しさ、人間関係、文化が残っています。何より、そこに住む人が寛容で個性的でパワフル。

でも、一方で、8割のお家は公費解体されてしまう予定で、集落の風景が失われてしまう危機にさらされている地域でもあります。今訪れるのと、10年後に訪れるのでは、全く景色が違うはずです。20代、30代は2人のみで、残りはほとんど80代前後のたった80人の集落。だからこそ、これまで受け継がれてきた知恵や暮らしの風景があり、わたしも、ここを何年後も訪れたい。だから、一緒にこの場所を受け継ぐ関係者になってくれる人が増えたらうれしいななんて思っています。

この生活風景は公費解体によりなくなってしまう
自分たちの食べるものは自分たちで収穫
はなちゃんが作った野菜をみんなで食べる
高屋に導いてくれた友人の雅ちゃん

おまけ:珠洲で訪れた個人的おすすめスポット

滞在中、いろんなお店や場所を友人に案内してもらいました。意外とお店開いてるんだということに驚きました。(しかし、まだ被災中でお家が大変ななか開けてくださっている方もたくさん。ありがたい。)

これから珠洲に行こうかなという人におすすめしたい、こんなにいい場所がたくさんあるよリストです。ちなみに、珠洲以外にも案内してもらったのですが、随分長くなりそうなので、またの機会で紹介したいと思います。

高屋のランチといえば「つばき茶屋」

とれたての海鮮が食べられる。現在、お刺身は船が出せず漁に行けないので、イカ、サザエ、などを使ったメニューが提供されています。野菜も高屋で採れたものを使用。大女将のさつきさんにぜひ会ってみてほしいです。

サザエ丼 1000円

赤い月が昇る「恋路海岸」

波が二方向から押し寄せる、なんとも不思議な海岸。夕焼けとムーンロードがとにかく圧巻。

タイミングが合えば赤い満月が昇る

釜玉うどんがおいしい「やぶ椿」

計3回も通ってしまったくらい大好きなお店。釜玉うどんが500円という破格。焼き餃子とエビの水餃子がおすすめ。

みんなが集まる「こだま」

こちらも2日連続で行ってしまうくらいお気に入りになったお店。個人的には珠洲産のジビエピザとカニのトマトクリームパスタがおすすめ。ボランティアの人にも地元の人にも人気でいつも人がいっぱい。石窯の再建寄付を店頭で受け付けています。

ネタの宝庫「いろは書店」

とにかくおもしろい店主のいるお店。(ただ、同じことばっかりインタビューされて大変そうだったので、そろそろオモコロあたりの人、いつもの話をまとめてあげてください。)再建プロジェクト大応援。

ゆっくり本を読むなら「鈴々堂」

いろは書店さんなんかで買った本を、ゆっくり読むならここ。ほっと一息つける静かな店内とおいしい珈琲。お店の外には看板馬がいます。

個性豊かなお土産が並ぶ「道の駅 狼煙」

珠洲のお土産はここでゲットしましょう。金土日だけ売られている大浜大豆のお豆腐はすぐに売り切れちゃう人気商品。とにかく豆腐観が変わります。めっちゃ豆。あと、オリジナルグッズがかわいすぎる。Tシャツ買っちゃった。

珠洲のデザイナーさんが書き下ろしている「大浜大造さん・豆子さん」

虜になっちゃうスパイスカレー「いかなてて」

何度もお邪魔しているお店、いかなてて。以前、ボランティアに行った際に振る舞っていただき、ファンになってしまい、毎回通っています。おいしすぎる。

ほっこりするパンが並ぶ「古川商店」

まあるいパンがたくさん並んでいて、疲れた気持ちをほっとさせてくれるパン屋さん。手書きのイラストがかわいい。


友人とシーシャに行きます。そして、また、noteを書きます。