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○○についての最も美しい表現

星野源がアップルミュージックで配信している「Inner Vision Hour」という番組内で、矢野顕子の「愛について」を選曲していた。母子家庭の母と子について歌った名曲。

オリジナルは友部正人で、「6月の雨の夜、チルチルミチルは」というアルバムの最後に収録されている。

アルバムの最初に入っている同名の表題曲もすごい歌で、妻子ある男が、おそらく別の若い女性とともに遠いどこかへ旅立つ歌だ。

「6月の雨の夜、チルチルミチルは
からの鳥かご下げて死の国へ旅立った」
「半ズボンはいたチルチルは 2人の子供のお父さん
そのチルチルにさそわれて ミチルは生まれ育った町を出た」

「死の国」をそのまま解釈すると、ふたりが無理心中をして死にに行く歌なんだろう。けれども、個人的な解釈では、不倫の駆け落ちでどこかへ旅立つことを社会的な自殺として「死の国」と表現しているのではないかと思う。アルバム最後の「愛について」で、母子家庭の母と子の前に元夫が登場する歌詞があって、この2つの歌はつながっているのではないかと思うからだ。

「父のいない子は 愛について考えつづける
夫のいない母も 愛について考えつづける
愛について考えることで 2人は結ばれている」
「道ばたである日 星のように遠いはずの男とすれ違う
愛のことを考えながら 子と母と、男は道ばたですれ違う」

そして、「6月の雨の夜、チルチルミチルは」の中でハイライトといえる歌詞は次のように歌う。

「知らないことでまんまるなのに 知るとかけてしまうものがある」

この抽象化された歌詞が何を意味しているのかは色々な解釈が可能で正解はおそらく無いのだろうけれど、自分は「知らないことでまんまるなのに 知るとかけてしまうもの」とは、セックスのことなのではないかと思っている。

まんまるだったミチルがチルチルと出会う。出会ったことで「かけてしまった」2人は、やがて死の国へと旅立つ。残されたチルチルの家族は、長い時間を経て「星のように遠いはずの男」とすれ違う。そんなストーリーを勝手に想像している。

で、そんな勝手な解釈を前提としてだけれど、「知らないことでまんまるなのに 知るとかけてしまうもの」って、セックスについての表現で最も美しいものではないかと思う。

松本隆が自分の歌詞の言葉を「血」や「毛細血管」にたとえて語るのをどこかで読んだ記憶があるのだけど、友部正人の歌詞も切ると吹き出すような「血の言葉」が多い。久しぶりに聴いたらかなりくらった。

*名作。サブスクには無い。

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