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【#旅と美術館】没後500年目の巡り合わせ

今回は、私が参加させていただいているちいさな美術館の学芸員さんのメンバーシップ「オトナの美術研究会」の『月イチお題note』にのっかって記事を書こうと思います。

3月のお題は【#旅と美術館】です。

わたしと旅と美術館

私にとって旅と美術館は切っても切れない関係で、どこへ旅をしても必ず一つは美術館を訪れます。というか、「旅=美術館を訪れること」になっているので、むしろ美術館を訪れない旅をしたことがないかも知れない。

そこで、今回の記事では「これぞ一生モノ」な旅と美術館の思い出を書いてみたいと思います。

チャンスの女神の前髪つかまえた!

それは2019年のこと、まだコロナ禍前で自由に旅行ができた時期。
オトナ大学生のわたしはそろそろ卒論執筆の時を迎えておりました。わたしは西洋美術史で卒論を書いたのですが、執筆にあたり作品をじかに観ておきたくてイタリア旅行を計画していました。その旅行の計画中に、海外のアートニュースサイトでめちゃくちゃトキメク記事を発見したのです!

それは、マルケ州にあるファブリアーノでユネスコ創造都市ネットワーク(UCCN)の年次総会が開催されるのに合わせて、レオナルド・ダ・ヴィンチの作品がエルミタージュ美術館から没後500年を記念して里帰りするという内容でした。

ちょうど旅行時期と重なるというミラクル・チャンスにもう観るしかない、ということで日程を変更してローマとファブリアーノを往復する1日をつくりました。
地方都市なので、電車の本数が限られていて往復するにも電車に乗っている時間の方が長くて6時間かかりました。でも、その価値は十二分にありました。

おかえりなさい《ブノワの聖母》

まずは、その作品をご覧ください。

レオナルド・ダ・ヴィンチ《ブノワの聖母》
1478−80年 エルミタージュ美術館

素晴らしいとしか言いようがないのですが、図録でみていた色彩やその濃淡、タッチその他の諸々が比較にならないほどの濃厚な情報量で飛び込んできました。現物を見ることでしか味わえない作品の奥行きといえばいいのでしょうか、比較的ちいさな作品ですがその存在感たるやすごいのなんのって!(語彙力ほしい)
額装もまた素敵だー。好き♡

作品を所蔵するエルミタージュ美術館は世界三大美術館のひとつ。行ってみたいのはやまやまだけど、ロシアに行く前に行きたい美術館があるし、いまの情勢では名作に会いに行く旅もなかなか企画しにくいですよね。

2019年の卒論研究旅行、調査地イタリア、没後500年記念の年、アートニュース検索・・・どれかひとつでも欠けていたら巡り会えなかった作品。
そして、思いたったが吉日とばかりに速攻で会いに行こうと決行したワタシ、エライ!よくやった!

実際のところ作品のイメージは時を経て薄らいでいますが、今も目を閉じればその時こころで感じた感動がありありと浮かびます。これだから美術館巡りはやめられない。

現地の学芸員と思しき方の解説がイタリア語なので何もわからなかったことはとっても残念だった。英語で「イタリア語わかる?」と聞かれて「No」と言うしかなくて、いい話を聞き逃したかも〜な気持ちでワカラナイお話を聞いた思い出は、その後イタリア語を学ぶ原動力に。その時手に入れたイタリア語の図録をいつか読めるようになりたいと、カメの歩みでやっています。

Pinacoteca Civica Bruno Molajoli
Leonardo La Madonna Benois dalle collezioni dell‘Ermitage
1 Giugno-30 Giugno 2019

常設展示の作品群


常設展示では、フレスコ画、テンペラ画、彩色木彫やタペストリーなどさまざまな作品がみられました。

印象に残っているのは彩色木彫の立像や座像。

ルネサンス期以降、彩色木彫やテラコッタ製の立像、坐像は技術の発展によりたくさん制作されて流行した時期があったようです。祈りとともに人々が頬ずりしたり撫でたりと、教会にあるブロンズ像などとは違ってとても身近な信仰イメージとして広まったそうです。展示されていたものが家庭にあったかは定かでないのですが、過去のそうした祈念の心というか、なんとも言えない存在感を放つ作品たちに囲まれて少し畏れを感じずにはいられませんでした。

ローマ⇄ファブリアーノ日帰り旅行の思い出

《ブノワの聖母》を鑑賞した後は電車の出発時間まで駆け足で観光しました。
その時の思い出を写真とともに。

マルケ州アンコーナ県にあるファブリアーノは人口3万人ほどのコムーネ。
その名もファブリアーノ社は、700年あまりの歴史がある高級紙製品メーカーで、水彩紙や版画紙で有名なのをご存知の方も多いでしょうか。

ファブリアーノは中世の面影を色濃く残す穏やかでのんびりとした地方都市。
美術館周辺は街の中心地になると思いますが、観光客も少なくとても静かでした。

お昼ということもあって、出歩く人も少なくのんびりムード

お昼になると現地の人たちはちゃんと休憩するので、事前にランチを予約してなくて少々あわてましたが、売店のジェラートと地元の人たちに混じっていただいたイートインのある惣菜屋さんのランチが美味しくで大満足。

食後はファブリアーノらしい紙や透かしなどを展示する美術館へ。

Museo della Carta e della Filigrana

午後のオープン時間になってもまだ閉ざされた入り口。30分くらいしてスタッフがお昼ごはんから戻ってきました(笑)。このゆったりさにやや不安げにベンチで待っていたアジア人2名は救われた思いでスタッフ到着と同時に入館w

開催中だったのは、韓国の紙を素材とした展覧会。

そして、版画や透かしの工程などを展示したコーナー。

日本人だとわかると、スタッフの方が美濃和紙の素晴らしさを褒め称えてくださり、さらには紙を制作する工程を解説した日本語のビデオも特別に見せてくださいました。セミナールームのような部屋にもフレスコ画があるところがいかにもイタリアらしい。

痛々しいイエスの前でビデオ鑑賞

お土産を見る時間も分刻みでしたが、ファブリアーノらしいミニノートを買いました。

通り道に催し物のポスター
優しさに潤ったエスプレッソwith氷

駅で電車を待つ間、喉の渇きを潤したくて「アイスコーヒーはありませんか?氷がたくさん入ったコーヒーです」と聞いてみるものの、イタリアには無論ない。で、店員さんはエスプレッソに氷をひとつサービスしてくれました。優しい(感涙)。

行きに美術館まで乗せてくれたタクシーのおじさんは、「料金は定額だから安心して呼んでね」と名刺を渡してくれるし(営業がほのぼのしてる)、美術館スタッフもフレンドリーだし、美術をみる以上にファブリアーノの人たちの温かさにふれて嬉しい旅になりました。

ファブリアーノ出身の画家

最後に、ファブリアーノ出身のジェンティーレ・ダ・ファブリアーノの作品を載せておきます。国際ゴシック様式の名作といわれています。

ジェンティーレ・ダ・ファブリアーノ《東方三博士の礼拝》
1423年 ウフィッツィ美術館

複雑きわまる画面構成に確かな腕前が冴えてる!個人的には動物たちのやさしい眼差しがなんともツボです。

以上、わたしの【#旅と美術館】でした。

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