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漫画原作のドコが改変されたのか|ドラマ化原作改変問題1

漫画原作のドラマ化に際して、原作者とテレビ局の間で
問題が発生してしまいました。
制作の過程で、どのような意見の相違が生じていたのでしょうか。

脚本、漫画の制作手順を参考に、
脚本と漫画それぞれ表現に係る要素が、
どのようにの相違するのか。を検討しました。

事件を読み解く手掛かりになれば、幸いです。
※読者、視聴者の視点でまとめた見解なので、
 専門家の見解とは異なる場合があります。

■機能の比較

機能的な面を比較することで、それぞれの媒体の役割を理解する。
どのような制限やルールの下で、執筆されるのか。
それによって、漫画から脚本への変換作業(脚色)に際して、
設定変更される箇所を考えてみます。

脚本は「時間の芸術」

映像作品は、動きと音声によって、時間経過が表現されている。

・全体の時間の長さが限定されている。(放送時間)
→全体の長さから1シーンのセリフの量が限定される。
※セリフの長さの調整によって、適切に意味内容が維持されるか。
 意味を変えて、シーンを改変する必要があれば、合意も必要。

・個別具体的な設定
脚本は映像化を前提に書かれるもので、実現可能な内容である。
撮影可能な場所、入手可能な小道具、設置可能なセット。
予算に見合った具体的な選択肢に限定しなければならない。
※小道具や衣装を制作するか、既存の物を入手する必要がある。
 どのような選択肢があり、結果、映像として、どのように見えるのか。
 イメージの共有が必要。

・制作上の制限
全体の演技を調和させるために、バランスよくキャラクターを配置する。
俳優が実際にセリフを読んで、違和感を感じない言い回しを書く。
※キャスティングや稽古時間など、制作上の都合で、設定変更が起きるか。
 俳優のイメージに合わせて、設定を変える場合があるか。
 最も優先すべき事項は何か。
 目的の共有が必要。

・構造を楽しむ娯楽
ある状況下での主人公の行動を観察する。
主人公が過ごす時間と同じ時間を視聴者も経験する。
主人公の周囲で起こる出来事、人と人の関わり、つまり、
物事の関係性を理解して、時間経過に伴う関係の変化を楽しむ。
※視聴者に何を経験させるか。
 映像作品として、独自の目標設定が必要である。
 必ずしも、漫画原作の追体験(再現)を目指すことが目的ではない。
 この点が、議論となる部分である。

漫画は「対話の芸術」

漫画のコマとコマには、対応関係がある。
前と後のコマの状態変化の連続で構成されている。
コマを読み進めるごとに、前のコマとの変化が読み取られていく。

・全体の長さ
漫画でも「時間経過」は表現できるが、読者に経験させることはできない。
コマの中に「1時間後」と書いても、実際に1時間が経過しない。
しかし、この例の通り、読者に設定指示を直接的に語り掛けることができるのが表現の強みである。1コマ1コマが、作者からの提示、問いかけ、
と見立てることができる。
※著者のメッセージを伝えるために必要な分量が、作品に必要な長さ。
 紙面枚数は制限されるが、コマの大きさ、セリフの分量などが自由。

・個別具体的な設定
表現の自由度が高く、棒人間とセリフだけでも、作品になる。
前段の状況説明や背景描写がなくてもよい。
逆に言えば、こだわりがあれば、いくらでも緻密な設定が可能である。
※取材メモや参考資料を展開して、設定の意図を理解する必要がある。
 原作者と脚本家が知識を共有し、協議する環境が整備されているか。
 資料は制作スタッフ、監督に共有され、表現の核となる要素が失われない 
 体制を執るべきだ。

・ある状況下での反応を楽しむ娯楽
キャラクターの造形描写、強調効果の描写という
指向性がある表現によって、キャラクター同士のやり取りが描かれる。
モノローグや内心セリフ、地の文によって、読者との対話が図られる。
つまり、メッセージの向かってる方向が明確で、読者の理解が容易である。

※映像化に際し、メッセージを動きと音、時間経過と美術に置き換える。
 漫画で表現された効果が、映像でも同じ効果を発揮するとは限らない。
 その時、メッセージを変えるのか。
 別のメッセージを伝えるのか。という判断が求められる。

所感
漫画原作の舞台化で脚本の改変が問題視されたという事例は、
あまり聞かない。上演の規模が小さいという事情もあるかもしれないが、
舞台と観客との距離の近さが、漫画表現の直接的な感覚に近いことが
関係しているようにも考えられる。

今回、議論となった点は、キャラクターや舞台設定の大幅な改変、
オリジナルエピソードの追加、元エピソードの削除など、
プロデュースに関わる認識の違いである。
本稿では、表現形式ごとの「記述される内容」を検討した。

今後、漫画原作のドラマ化に際しては、十分なコミュニケーションと契約、
制作時間と体制の整備によって、問題が起きないことを願います。


改変に係る経緯の考察は以下の記事です。


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