見出し画像

かなたの丘に

かなたの丘に                2022.5.21


夜の丘のふもと。
女の子は、つぶやいていました。
星の、こぼれおちそうにまばゆい光を、ゆるやかな鼻すじのてっぺんにとまらせ、
夜よりも黒い両目の内を、星のかなたの深みへ投げて。
「まだ、まだ、まだ...」

夜の丘の中腹。
少女はそっと、呼んでいました。
町の屋根から、扉から、こぼれ、ゆらめき、にじんでいく、
さみしい声を、あの家の窓を、
きりひらいたまぶたで、なぞるように受けとめ。
「終わらない、終わらない...」
なにか。

夜の丘。深い、深い、記憶のそこで、
私はつぶやき、あるいは呼んで、あの夜あの丘にのぼりました。
今は、この丘をのぼっています。
背中できっと、見ています。
こぼれおちる星々。ゆれている街の灯。
きのうとあしたが交わるように...。

いつか、終わって、ふりむいて、
ふいにまた、知るのでしょうか。
私がまだ、私でしかないという、この声の、たしかさ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?