染める気なんてたかった
やや赤みが勝った茶色の髪はクセが強くおさまりが悪い。
いわゆる艶やかで漆黒の絹糸のようなまっすぐの、日本女子の美人の構成要素となるような紙質ではなかったため、子供の頃からから母親にぶちぶちと文句を言われながらコテを当てられていた。
そんな幼少期を過ごしたせいか私は自分の髪が嫌いだった。
けれど、母に逆らうことを恐れていた私は二十歳を過ぎるまでバージンヘアを守っていた。
そんなある日、ヘアサロンのおばちゃんから
「これは染めでは出せない天然の茶色よね。とても綺麗だから大切にしてね」
と言われた。
用紙に美点など一つも見出せなかった私は、その言葉を信じてその日から自分の地毛の色を大切にしてきた。
そして50を越えたある日、後頭部の一房が、まるでメッシュを入れたようにグレーヘアーになっていた。
私には白髪染めの選択肢は元々なく、地毛→グレーヘアーでいいと思っていたのだけれど……
どうせなら髪の色を変えてみるのもいいな……
そう思って部分的に染めることにした。
「何色にします?」
とスタイリストに聞かれたので、
「鬼滅の刃の時透無一郎くんで!」
と、迷うことなく推しキャラの髪色を選んだ。
あれから一年半。
前髪とサイドは青緑っぽい。
二、三ヶ月に一度のペースで染めるので、その間の脱色していくときの色編も面白い。
(自分でよくわからないから周りの反雨を見て楽しむ)
先月、染めた色が抜けてブリーチした部分が金髪になった時は「みうらじゅんさんみたい〜」とふざけて言っていたら、周りから「ワハハ、そっくり!」と言われた。
いや確かに、似てるから言ったけどさ、人に言われるとココロビミョーなんですけど?
コンプレックスを人から素直に褒めてもらって大好きになり、そしてそれを大切に守ってきた。
そのまま自然に変わってゆくという選択肢もあっただろうけれど、思い切って髪を染めてみるとそれはとても刺激的だった。
ちょうどその前後から私自身が価値観や視点の変化を求めていろんな身の回りの整理を始めたタイミングで一致したからかもしれないけれど。
碧色という人ならざるアニメキャラのような色に変えたことで、自分自身がユニークな存在であることを私自身にも許すきっかけになったように感じるからだ。
そして初めて髪を染めた日から半年後、私は自分がトランスジェンダーであることを辞任した。
「私は女ではない」
そのことを自分に許して受け入れる柔軟な心を手に入れるための過程として、私の髪の色の変化という行為はとても大切な役割を果たしてくれたと思っている。
ユニークに生きていいんだよ。
また一つ母からの呪縛から解放されるために必要だったセレモニーー
それが私にとって「髪の色を変える」ということでした。
お読みいただきありがとうございます。
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