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『子ども白書2023』ができました【3】一部公開 特集にあたって「硬直した社会規範がもたらす閉塞感を打ち破るために」

 今年で59冊目を迎えた『子ども白書』(日本子どもを守る会編)。児童憲章の精神に基づき、子どもたちが安心して暮らし、豊かに育ち合っていける社会の実現をめざして刊行を続けています。今年の特集は「いま、子どもの声を〈きく〉」。かもがわ出版のnoteで内容を一部公開していきます。今回は、「特集にあたって」です。
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「硬直した社会規範がもたらす閉塞感を打ち破るために」
(森本扶・子ども白書編集委員長)

  深刻化する少子化やコロナ禍で加速した子育ての困難の解決を目指し、この度、「こども家庭庁」が設置され、「こども基本法」が施行されました。「子どもをまんなかに」というコンセプトのもと、「子どもの権利」の保障が明記され、子どもを「自立した主体」と認識し、彼らの声を聞きながら当事者目線に立った政策を進めていくことが目指されるなど、期待は大きい半面、これまで〈子どもの意見表明権〉や〈権利主体としての子ども〉という考え方が定着してこなかったわが国の歴史や、子ども政策の民営化や規制緩和の動きをふまえると、直ちに方向転換するものであるのかどうか疑問も多いでしょう。

 そこでわれわれは、「子どもの声をきく」という子ども白書がこれまでも大切にし続けてきたこの根本理念を、いま改めて問い直す特集を組むことにしました。構成を考える際に大事にした切り口は以下の5 点です。

 第1 に、「子どもの声をきく」とはどういうことなのか、原理的にひも解く視点です。「子どもの声」といっても言葉や音声にならない思いや無意識の反応も含まれますし、そうすると「きく」という行為も、意識的に意見をきくだけでなく、自然にきこえてくる、からだで感じるということも含めた奥行きと広がりがあるはずです。そこを浮き彫りにしたいと考えました。「聞く・聴く」ではなく「きく」という表記にしたのもそうした意図からです。

 第2に、年齢段階やテーマを広くカバーする視点です。「子どもの声」というと、ともすればまとまった意見のいえる若者の声が注目されがちです。したがって、乳幼児から若者にいたるまで、希望の声も困難の声も含めた「子どもの声」の多様性・現代性に目配りしながら構成しました。

 第3 に、声をきく「手法」について単なるハウツー議論にならないよう留意する視点です。昨今、ともすればおとながカウンセリングやコーチングの技法を形式的に理解して、子どもの声をきいていると自己満足する例も少なくないと感じます。子どももおとなを忖度するので、そうなると何が本当の子どもの声なのかわからなくなってしまいます。したがって「手法」議論は、おとなが子どもとの権力関係を自覚しつつ、そこを乗り越えてどう子どもと対話し一緒に声を紡いでいくか、という視点が必須ではないでしょうか。さらに、それだけの余裕がおとなに保障されていなければならないという議論も必要です。このような視点を大切にしながら企画を立てました。

 第4 に、関連法制度を冷静に分析する視点です。権利条約を批准して20 数年、なかなか法制度の整備が進まなかったわが国ですが、2016 年の児童福祉法改正以降ここへきて急に国内法制度への反映が進んでいます。2021 年からの「こども庁」(当時)構想も唐突感が否めないものでした。したがって、わが国の「子どもの声をきく」仕組みづくりはまだ付け焼刃の状態といえます。外国の先進事例にも学びながら、冷静に課題を整理していく必要があるでしょう。

 最後に、子ども・若者の生の声・体験から学ぶ視点です。困難を乗り越え、思いを行動にしていった若者たちの姿を通してわれわれは学ぶでしょう。子どもが声を獲得することがどれほど社会に希望と勇気をもたらすか、ということを。また冒頭折り込みの年表の裏には、おとなに対して「もっとこうしてほしい」という子どもたちの声がまとめられています。あわせてお読みください。

 ブリントンはインタビュー調査を通して、若者も含めた日本人の多くが、先行世代から伝えられる伝統的家族観や性別役割分業観にいまだ縛られていることを見出しました(メアリー・C・ブリントン『縛られる日本人 人口減少をもたらす「規範」を打ち破れるか』中公新書、2022 年)。「異次元の少子化対策」として経済的支援ばかりに目が行きがちですが、まずやるべきことは、この硬直した社会規範がもたらす閉塞感を打ち破ることではないでしょうか。そのためにも「いま、子どもの声を〈きく〉」。原点はここからだと思うのです。

日本子どもを守る会編『子ども白書2023』
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