【連載エッセー第21回】虫と共に生きる
丸山啓史さん(『気候変動と子どもたち』著者)は、2022年春に家族で山里に移り住みました。持続可能な「懐かしい未来」を追求する日々の生活を綴ります。(月2回、1日と15日に更新予定)
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移住してからというもの、「自然が豊かなところで、いいですね」と言われることが少なくない。“そうなんですよ”と思うところもありつつ、“いいことばかりじゃないですが…”と思ったりもする。
春になり、夏になるなかで、虫たちが活発になっていく。
虫が嫌いというわけではない。私も、妻も、子どもたちも、虫とは仲良くやっているほうだと思う。殺虫剤はもちろん、市販の虫対策グッズは何も使っていない。ゴキブリに目くじらを立てたりもしない。アシナガバチやスズメバチが部屋の中を飛んでいても、特に騒ぐことはない。ゾウムシが台所を散歩していたり、マイマイカブリが風呂場を訪れていたりすると、丁重に家の外に送り出している。大きなアシダカグモが床を這っていくのは、(ときどきびっくりしつつ)温かく見守るようにしている。網戸をなくした窓もあり、ことさらに虫を拒絶しようとはしていない。
とはいえ、大きなハエが部屋を飛び回るのは、やっぱり目や耳にうるさい。夜にカメムシが飛ぶ羽音も、気になりはする。読書灯にいろいろな虫が寄ってくるのも、あまり歓迎はできない。
去年の夏、まいったのは、何度もブユに刺されたこと。ブヨ、ブトと言われたりもする小さな虫に、ほとほと困らされた(子どもたちは刺されてもわりと平気なのに…)。
私の体質が影響しているのか、刺された後の対処がまずいのか、ブユに刺されたところがなかなか治らない。おまけに、ブユとの関係は謎だけれど、これまでに経験のない細かな発疹が体のあちこちに広がった。
ブユは清流に生息するそうで、“家の近くを流れている川はきれいなんだな”と改めて思うものの、良質の水を素朴に喜んでよいのかどうか、複雑な気持ちになる。
昨年の教訓をふまえ、今年の夏は、とりあえず服装を変えることにした。黒のシャツや黒のズボンは、虫が寄って来やすいようなので、夏場には着ないことにした(ベージュ系のズボンを新しく購入することになり、衣類による環境負荷という面では少し気がとがめる)。
ブユにせよ、蚊にせよ、刺してくる虫と仲良くするのは難しいけれど、化学的な印象の強い虫除けスプレーで追い払うことはしたくない。「自然派」のものであれ、虫たちとの関係のなかで工業製品を使いたくはない。
私たちの家族は、クモやヤモリやカエルに期待している。ほかの生きものに頼るのは卑怯な感じがしないでもないけれど、生態系の力でほどよいところに落ち着くことを願っている。
実際のところ、家のまわりには茂みが多いものの、「まち」に住んでいたときに比べて、蚊に悩まされることはずいぶん減った。窓を開け放っていても、蚊ばかりがどんどん家に入ってくるということはない。
ただ、もしかすると、全体として虫がそれほど多くないのかもしれない。木や草がたくさん生えているわりには、虫や小動物が少ない気もする。長く住んでいる人からは、「昔は蛍がもっとたくさん出たけれど…」という話も聞く。農薬の影響などがあるのだろうか。山に囲まれた、田畑のある地域だけれど、本当に「自然が豊か」と言えるのか、疑問に思うこともある。