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スコットランド日和②阿比留久美 イギリスにおける「多様性」

スコットランドのエジンバラで研究生活を送っている阿比留久美さん(早稲田大学、「子どものための居場所論」)の現地レポートを連載します(月2回程度の更新予定)。
 ★「子どものための居場所論」note はこちらから読めます。
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 イギリスの国旗、ユニオンジャックは、どのようにして作られているか、ご存じですか?

 イギリスの正式名称は、グレートブリテン及び北アイルランド連合王国で、イングランド、ウェールズ、スコットランド、アイルランドによる連合王国となっています。ユニオンジャックは、この4つの地域(あるいは国)、白地に赤十字の聖ゲオルギウスの十字であるイングランド、青地に斜め白十字の聖アンドリューの十字のスコットランド、白地に斜め赤十字の聖パトリックの十字のアイルランド、という3つの地域の国旗を組み合わせたものなのです(ウェールズの国旗は、白と緑の背景の上に赤い竜が描かれたものですが、1603年に最初のイギリス国旗が制定された時にはすでにイングランドに併合されていたために、国旗をつくる際に含まれなかったそうです)。

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「イギリスの国旗の意味を分かりやすく解説!
ユニオンジャックになぜウェールズがないの?
由来や豆知識、簡単な描き方まで紹介」

 言われてみれば、それぞれの地域の国旗について、スポーツの国際試合や各地域にまつわるものでそれぞれの地域の国旗を見たことがありましたが、それらを合わせたものがイギリス国旗になっていることは、お恥ずかしながら、スコットランドに住むようになって初めて知りました。

 この国旗の成り立ちからは、ゲルマン民族系のイングランド人、ケルト系のスコットランド人、アイルランド人、ウェールズ人と、異なる民族・言語・文化をもった人たちの集まりで国が構成されているということが明示的に示されていることがわかります。この国旗の存在は、グレートブリテン島とアイルランド島におけるイングランドの侵略や支配の歴史とも重なるものでもありますが、他の民族がイングランドに同化されていってしまうのではなく、現在もそれぞれイギリス人(ブリティッシュ)というアイデンティティと共に、スコットランド人、アイルランド人、ウェールズ人というアイデンティティをもちながら、生きていることに、双方の文化の厚みを感じます。

 また、植民地支配の影響も強く、イギリスには旧植民地出身の人たちや移民がたくさん住んでおり、エジンバラではインド系の人が多いように感じます。

 近年では、中国政府が香港での反政府的な動きを取り締まる「香港国家安全維持法」(国安法、2020年)を施行したのを受け、2021年1月末からイギリス政府は香港市民に対して、イギリスの市民権を獲得できる道を開く特別ビザの申請を受け付けています。(「香港から第2の移民ラッシュ 英国へ11万人、返還時を上回るペース」朝日新聞2022年6月29日Hong Kong Free Press “Over 144,000 Hongkongers move to UK in 2 years since launch of BNO visa scheme”, 2023/2/1。)

 そのようなことが起きていることを、わたしは最初知らなかったのですが、エジンバラにきてから、2回ほど香港からの移民の人たちのパフォーマンスやサイレントデモの場に居合わせ、調べてそのことを知りました。

スコットランドジョークの書かれたカード

 そこから感じたのは、植民地支配の歴史というのは、その土地を返還しても、国家間での謝罪や賠償がすんでも終わるものではない、ずっと消えないものだということです。自分たちの侵略の歴史をどのようにとらえ、どのように歴史に対して応答していくのか、歴史への応答に対する基本的な価値観をどのようなものとして設定するのか、とても考えさせられた出来事でした。

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