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【先行公開】『子ども白書2024』(2)巻頭言「子どもたちは訴える 持続可能な環境は私たちの命」

 『子ども白書』(日本子どもを守る会編)は今年60冊目を迎えました。児童憲章の精神に基づき、子どもたちが安心して暮らし、豊かに育ち合っていける社会の実現をめざして刊行を続けています。今年の特集は「気候危機は、子どもの権利の危機」。かもがわ出版のnoteで内容を一部公開していきます。今回は、巻頭言です。

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「子どもたちは訴える 持続可能な環境は私たちの命」   (増山均・日本子どもを守る会会長)

 子ども白書は1964 年に創刊されてから、60 年目を迎えました。1966 年に1 年だけ休刊しましたが、今年で60 冊目になります。子ども白書は、内外の政治・経済・文化情勢の変化の中で、その時々の、子どもの生活と発達に関する主要問題を取りあげ、子どものしあわせ実現に向けて、最前線で活躍する方々の実践に学び、専門家の知見に支えられ、子どもたちの現在と未来にとって必要な問題・緊急課題を提起し続けて来ました。

 本年2024 年の子ども白書のメインテーマは「気候危機は、子どもの権利の危機」ですが、このテーマは、子どもたちの現在と未来にとっては勿論のこと、人類の未来にとって、さらには、地球そのものの未来に向けて深く大きなテーマです。この大テーマに辿り着いたのは、地球そのものが病気になっている現在、待ったなしの未来からの切実な問いかけにあると思います。しかし、児童憲章(「児童は人として尊ばれる。児童は社会の一員として重んぜられる。児童は良い環境の中で育てられる。」)の完全実現を目指して歩み、子どものしあわせ実現をめざしてきた日本子どもを守る会と子ども白書の歩みから見ると、必然的にこのテーマに辿り着いたものとみることができます。

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 子ども白書は、1964 年の創刊号から、自然環境の崩れ・変化に目を向け、子どもの発達にとって自然環境を保全することの重要性を指摘してきました。「環境と子どもの人権」問題に、いち早く目を向け、環境破壊を告発し、国際的な視点で自然保護・環境保全問題と環境教育の重要性を論じたパイオニアは、福島要一さん(副会長1978年から1987年)でした。

 白書は、創刊号から「子どもと公害問題」や「遊び環境の変化」をとりあげ、子どもの発達にとって自然環境がいかに重要なものであるかを指摘し、特に70 年代の白書では開発の名による地域環境破壊と公害問題を検討し続けました。そして1989 年版から、編集の中心的柱の一つとして「子どもと環境」のテーマを立て、全国的な実態と運動に目くばりしてきました。1989年は、国連で子どもの権利条約が採択された年でしたが、この年の子ども白書では、主要論文の一つとして福島要一さんが「環境と子どもの人権」(『児童問題研究』第18号にも収録)を論じています。

 福島さんは、1987 年に成立した「総合保養地域整備法」(いわゆるリゾート法)により、全国的なリゾート開発によって環境破壊が急激に進んでいる実態を告発し、1974 年6 月に制定されていた「自然保護憲章」の意義を強調しています。自然に親しみ、自然に学び、自然を尊ぼうという「自然保護憲章」の精神が、子どもの成長にとっていかに重要であるかを述べるとともに、環境問題の本質は、祖先から受け継いできたこの地球を、少なくともより悪くして子孫に残さないという、未来の世代に対するおとなの責任であると指摘していました。

 福島さんが指摘していた地球環境をめぐるおとな世代の責任については、1989 年に子どもの権利条約が制定されてから、条約制定をめぐる歴史的背景と今日的課題が深められていく中で、特に「世代間の平等」という権利思想の新しい展開として捉えられていきました。

 1992 年版の子ども白書は、《地球社会と子どもの権利》をメインテーマとして編集されましたが、当時の大田堯会長が「地球環境と子どもの人権」を論じ、「世代間の不公平」の問題に注目しています。大田さんは、地球環境の破壊・地球汚染の問題が人類を含む生物絶滅の危機をもたらしているとし、子どもの権利条約成立の背景には平和の問題と同時に「世代間の平等」という「より高い人権思想が、かくし味として存在していることを考えたい」と述べていました。いまや地球温暖化が進み、急速に深刻さを増していく気候危機の問題は、戦争という最大の環境破壊以上に、もはやかくし味どころか、子どもの命、人類の未来にかんする主要問題として顕在化し、緊急性をもってクローズアップされており、今年の子ども白書のメインテーマ設定は必然です。

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 地球温暖化が進み、地球沸騰化(国連グテーレス事務総長)とまでいわれた昨年の夏。さて、ことしはどのような夏になるのでしょうか。この日本でも年間を通じて夏日・真夏日が増え、春と秋が少なくなってきていると言われています。四季のバランスの崩れは、急速に日本人の季節感そのものを狂わせ、失わせてきているように思います。

 いま地球規模での気候変動・気候危機に直面しているとき、外なる自然の危機と共に、自然の一部である人間そのものの内なる自然の危機に目を向ける必要があると思います。日本子どもを守る会の発足時から、夫妻で子どもを守る運動に取り組んだ教育学者の宮原誠一氏のことばを思い出します。宮原さんは、「子どもと季節感」(1961年)と題する小論の中で、「日本のように四季の変化のはっきりした美しい風土に恵まれている国で、子どもたちに季節感をみがかせない法はない」と述べていました。

 しかしいま、地球規模の気候変動の中での気温上昇と共に、日本の四季そのものが変化し、二十四節気・七十二候の変化を感じ分ける文化を失っているのではないかと思います。そうした時だからこそ、これまで以上にセンス・オブ・ワンダーを大切にして、気候変動が生みだしている諸問題を深く見つめていかねばならないと思うのです。

日本子どもを守る会会長 増山均

日本子どもを守る会編『子ども白書2024』
(画像をクリックすると詳細ページにとびます)

*『子ども白書2024』の一般書店での発売は7月23日(予定)です。

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