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【先行公開】(4/4) 葛西リサ 『13歳から考える住まいの権利 多様な生き方を実現する「家」のはなし』

 『13歳から考える住まいの権利 多様な生き方を実現する「家」のはなし』(葛西リサ著、12月12日販売予定)は、「空き家活用」や「居住支援」、「シェアハウス」「団地再生」など最近話題のワードを軸に、これからの住まい方について考えます。全4回の最終回は、「おわりに」の公開です。

おわりに  だれと暮らすかを自分で決めることができる社会へ

 戦後の日本の社会は、血縁でつながったメンバーがともに暮らすことを「ふつう」ととらえてきました。男女は結婚して一緒に暮らし、血縁関係にある家族を形成し、支えあうことが幸せなのだと多くの人が信じていました。

 そのスタイルが現代の私たちの生活にだんだんと馴染まなくなってきた経緯は、本書で学んだ通りです。人々のライフコースは劇的に変化し、結婚しない人も、子どもを産まない選択をする人も増えました。離婚する人の割合も増加しています。生涯にわたり働く女性が増え、育児などのケアは女性だけの仕事ではなくなりました。障害があっても、高齢であっても、その人らしいふつうの生活を営む権利を保障することは、世界のスタンダードとなりつつあります。

 こういった社会の急速な変化に日本の住宅政策は対応できず、さまざまな住宅問題を生み出しています。金銭的な事情、ケアの不足、そして、言われなき偏見などから、望ましくない環境に甘んじている人は多く存在します。

 一方で、国民が一生涯をかけて購入した持ち家はあっという間に寿命を迎え、空き家となっています。その数は年々増え続け、いまやその存在は、負の遺産、排除すべき対象として取り上げられるようになりました。

 しかし、空き家というマイナスの要素に、ちょっとしたアイデアを加えることで、居住者を幸せにすることは可能です。本書で紹介した事例は、いずれも、血のつながりのない複数の世帯がともに暮らし、それぞれが足りないケアを居住者同士で補い合いながら暮らすことを実践していました。

 だれとどこに暮らすことが幸福なのか。この追求は、もう社会の側に任せるではなく、私たち、住み手が決めるべき時にきているのだと言えるでしょう。

『13歳から考える住まいの権利』