【先行公開】江守正多さん(東京大学未来ビジョン研究センター)にインタビュー
『子ども白書』(日本子どもを守る会編)は今年60冊目を迎えました。児童憲章の精神に基づき、子どもたちが安心して暮らし、豊かに育ち合っていける社会の実現をめざして刊行を続けています。今年の特集は「気候危機は、子どもの権利の危機」。かもがわ出版のnoteで内容を一部先行公開します。
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江守正多さん(東京大学未来ビジョン研究センター)
気候変動を解決するために 行動する子どもたちの声を聞き、共感を広げよう
近年、猛暑や自然災害など異常気象を実感する機会が増えています。しかしながら、「気候変動」については「地球規模の問題でピンとこない」「大事だとは思うけれどよくわからない」という声も耳にします。江守正多さんは、気候科学の専門家で、これまでもわかりやすく最新の科学的知見を解説されてきました。今、世界でどんなことが起きているのか、そしてこの問題を解決するためのカギは何か、お話を伺いました。
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――「一般的意見26 号」の背景には、深刻化する地球温暖化・気候変動があります。このことについて、原因や現状、将来予測など科学的見地から解説をお願いします。
地球の平均気温が上昇することを「地球温暖化」といいます。地球の温度は、過去1 万年ほどは、かなり安定していました。ところが、産業革命以降の約100 年から200 年の間に、自然には起こり得ないような速度で気温の上昇が生じています。その結果、さまざまな気候の変化(気候変動)が起きています。
この現象の原因が「人間活動の影響であることは疑う余地がない」というのが、現在の科学的な結論です。より具体的には、温室効果ガスが大気中に増えていることが原因です。 温室効果ガスは、もともと大気中にある程度存在し、地球の温度を適度に保っていました。しかし、産業革命以降、化石燃料(石炭・石油・天然ガス等)を地中から掘り出し、エネルギーなどを得るために燃焼させる過程で、二酸化炭素(CO2)が大気に排出され増加しました。人間活動により増加している温室効果ガスにはメタンやフロンなどもありますが、地球温暖化の最も主要な原因となっているのはCO2 です。世界の平均気温は産業革命を基準として、2020年までの10 年平均で、すでに1.1℃上がったといわれています。最近はもうちょっと上がって、1.2 ~ 1.3℃になっていると思います。
――「地球の平均気温が1.1℃上昇した」というのは、そんなに大変なことなのでしょうか。
氷河期でも、地球の平均気温は今より5 ~6℃しか低くなかったといわれています。それでも、カナダや北欧のあたりは氷で覆われ、海面は120 メートルほど低かった。つまり、平均気温が数度変化するだけで、地球は変わり果てた姿になってしまいます。それを人間が1℃上げてしまったというのは、かなり重大なことだということがお分かりいただけると思います。
具体的な影響としては、気温が上昇することで、今まで起こり得なかったような記録的な高温が各地で発生しています。また、大気中の気温が上がることで大気中の水蒸気量も増えるため、記録的な大雨が降りやすくなり、台風も発達しやすくなります。一方で、乾燥地域では、温暖化により地面からの水分の蒸発が増え、深刻な干ばつが起きるようになっています。その結果、生態系や人間の食料生産などに深刻な影響や被害が出ています。
さらに、陸地の氷河の融解および温度上昇による海水の膨張で海面が上昇し、沿岸部や海抜の低い地域では、浸水や高潮などの被害が起きています。それから、森林火災です。さまざまな原因で火災自体は起こるのですが、高温と乾燥により燃え広がりやすく、収まりにくくなっています。そういった事態はすでに、多くの国や地域で頻発しています。
人間が温室効果ガスを排出し続ける限り、温暖化は進行し、先ほど述べたような影響がより深刻になり、その厳しさも増していくことは明らかです。何も対策を講じなかった場合、今世紀末には世界の平均気温が4~5℃ほど上昇するといわれています。人間が氷河期に匹敵するような温度差を生み出す可能性があるという、途方もない変化が現在進行中です。
――「気候危機が構造的暴力である」とは、具体的にどういうことでしょうか。
気候変動が起きている原因は温室効果ガスの排出ですが、「誰が排出しているのか」「誰がその影響を受けているのか」を考えると、より多く排出した人々(先進国・富裕層)がより影響を受けるわけではなく、むしろ温室効果ガスをほとんど排出していない人々(途上国・貧困層)が深刻な影響を受けています。原因に全く責任がない人々が命を落としたり、難民になったりしてしまう一方で、温室効果ガスを排出している人々は、そのことの罪を直接は問われていないという非常に理不尽なことが起きています。今の社会システムが、このような人権侵害を許してしまう構造になっているといえます。
その問題はさらに世代間の格差も生んでいます。このままでは、地球は一層温暖化してしまうため、未来の世代はより温暖化が進んだ、より深刻な影響が出た地球上で長く生きていかなければなりません。つまり、温暖化が止まらない限り、後から生まれてくるほど深刻な被害を受けるということですが、その原因は前の世代が排出した温室効果ガスです。しかも、温暖化をどれだけの気温上昇で止めるか、どれだけ急いで対策するかということをおとなたちが勝手に決めています。子どもたちはほぼ発言の機会が与えられず、当然ながらまだ生まれていない人たちは発言できないという構造の中で、この問題が進行しています。
――世界が掲げる「1.5℃目標」「2050年カーボンニュートラル」というのはそもそもどういうことを指しているのですか?/ ――脱化石燃料、化石文明からの移行は可能なのでしょうか。/ ――子どもや若者へのメッセージをお願いします。・・・・・・続きは『子ども白書2024』でお読みください。
*『子ども白書2024』の一般書店での発売は7月23日(予定)です。