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災害非常時とカレー屋

 兵庫県川西市で進行中の、久木田郁哉のカレー屋発のプロジェクトの具体的な様子について、①「川西のカレー屋~ケプリとミルズ~」
https://note.com/kamocafe/n/n31d9a5118581)②「川西ケプリタウンの社会学~しょぼい起業の街づくり」(https://note.com/kamocafe/n/n755ac9975b91)の二つの記事でご紹介した。これは、精神障害や発達障害を持っていたり、一般社会では生きづらい感覚を持った人達が、えらいてんちょう発の「しょぼい起業」の概念や方法論に共感して、自分でも店舗を開いてしょぼい起業をやってみようという動きだ。川西では久木田郁哉のカレー屋が中心となってマイクロ起業を広める動きを展開しているが、商業活動自体は通常の経済活動の原則に沿っている。それとは別のテーマも書いて行きいと思い、本稿を書いている。本稿のテーマは、「災害非常時とカレー屋」だ。
 日本における災害は、地震や津波が一番身近だ。2011年の東日本大震災では多くの人が生活基盤や住居を失った。和歌山沖が想定される南海トラフ地震はいつでも起こる可能性があり(2022年初頭にはトンガで火山が1000年規模の大爆発を起こした)、想定されている被害も広範囲かつ甚大だ。
 また、2020年から始まったコロナウイルス問題も、大震災の様な物理的な破壊性を持つものではないが、別の意味での非常事態なのは経験した通りで、コロナウイルス感染者は病院やホテルや家に隔離することが決められ、公共機関から非常食の供給がなされた。
 物理的変動や政治変動で社会を原則通り回すことが上手くいかず、社会が混乱する状態を例外状態という。コロナウイルスがもたらしたものは正にそれに当てはまるし、2022年もその例外状態が深化していると言っていいように思う。しかし、災害非常事態や例外状態が到来することが予想されているならば、それに対して準備することはできる。

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 私が川西のケプリでカレー屋の仕事を始め出して3年目だが、私が体験し観察している所では、カレー屋はおそらく、災害非常時や例外状態とは相性が良い。カレー屋の商品や業態がそうなのだ。カレー屋の商品であるカレー粉は長期間保存でき、軽いので持ち運びもできる。保存食や非常食としてのカレーというのは例外状態における食事の有力な候補になると思う。実際、我々のカレー屋ケプリとミルズに、災害時の避難所になることを想定した大規模な公園建設予定地の建設者から問い合わせがあり、災害時非常食としてのカレーセットとのサンプルのご提案を頂き、納品した実績がある。
 ケプリの一番基礎的な商品であるトマトチキンカレーは、トマト缶と鶏肉とタマネギと水とご飯だけで完成するシンプルな商品だ。カレー粉とトマト缶とご飯は長期間保存できる。通常の鶏肉とタマネギはそうはいかないが、タマネギについては、乾燥タマネギ(ドライオニオン)を提供するという提案もできる。また、トマト缶の代わりに乾燥のトマトパウダーを提供することもでき、それは体積と重量がかなり圧縮されている。

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 また、ケプリとミルズには水だけでできるカレー粉があり、それが豆カレーだ。豆カレーも元々はトマト缶を使っていたが、乾燥トマトパウダーを使うことにして初めからカレー粉と混合することで、トマト缶を使う工程を減らした。
 豆カレーには二種類あり、トマト豆カレーとココナッツ豆カレーがある。どちらも鍋にカレー粉と水を入れて煮るだけで完成する。豆カレーは災害時非常食に向いている。これは自衛隊にも納品できると思う。また、豆カレー以外にも、ミルズではビリヤニ(インド風炊き込みご飯)のセットを販売しており、ダールビリヤニ(豆のビリヤニ)は炊飯器で炊くだけで完成する。

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 ケプリのカレーは一袋二食分か三食分で、使用する水や具材の分量もきちっと規定されており、作るためにあまり何も悩まなくていい。分量を拡大すれば、炊き出しのために多くのカレーを作ることもできる。誰でも作れるのと、煮込んで皆んなでシェアできるので、ご飯を炊けばすぐに炊き出しができる。夏は厳しいが、冬で外気が10度以下ならば、作ったカレーを2日か3日は保存できる。カレーは本当に簡単で美味しい。
 ケプリは元々は、一般社会で働くのに困難がある精神障害者や発達障害者の人達を積極的に従業員として採用して始めたカレー屋で、だからこそ、カレー粉と具材と水を入れて鍋で煮るだけにするなど(災害時に運搬コストになる油を使う必要もない。具材を炒める工程など全くない)、作り方やオペレーションを工夫して簡単にしていた。久木田が設計して提案しているカレー屋では、通常の大きさの鍋でガスコンロを使ってカレーを作っている。電気やガスやその他のインフラや制御システムが止まっても通常のやり方でカレーを作れるのだ。ケプリやミルズは、とにかく簡単でシンプルで分解しやすいカレー屋だ。
 現在もその様な事業性質は継続しており、社長の久木田は、いかにして一つでも作業工程を減らしてカレー屋の作業やオペレーションを簡単にするかという事を日々研鑽している。社会が例外状態になると、災害時の現場などでは、原則社会の中で障害者のために作ったような簡単な仕組みが積極的に生きて来るかもしれない。
 これを書いている私はケプリ従業員だが、本稿と関連して、カレー屋立ち上げマニュアルもまとめて、社会に公開したいと思う。


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