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diary8

「そうやって、ずっと私には後姿しか見せてくれないのね!」
「伝説や精霊なんて、ろくに信じてくれなかったのに」
「今は・・・・違うんだ」
「今のままじゃあなたがだめになるわ。逢えなくなってもいい、顔を見せて」
「.・・嫌だ」
「・・なぜ?」
「まだ、お前を」
私、流星を束縛するのが嫌なのよそんなになるならあっさりと忘れられた方がいい
「同じことさ。振り返って、お前が消えても俺には忘れられないよ」
「・・・流ちゃん」
「忘れられるわけないんだよ!」
思わず立ち上がった流星は、寸前のところで振り向くのを留まった。
砕けて打ち寄せて来た波が足元で跳ね、すくってい
く。
ぬれた足元から、干いていく波の際まで、流星の影だけがひょろりと伸びている。
その時、カラカラと乾いた音をたてて、
再び押し寄せて来た波の白泡がもつれて飲み込まれて行く
「凪が終るわ」
その声はひどく細く、消え入りそうな声だった。流星は息を呑んで立ちすくんだ。
「流ちゃんあなたの決心がつくまで、ここへは来ないで。私、つらいから・・・・」
「麻美!」
叫んだ後で、彼は我に返った。
しまった!
思ったのと、砂浜に風が戻ってきたのは、どち
らが先とも言い難かった。
そこに、清瀬麻美が居た。
落日の逆光線の中で、その長い髪がきらめいていた。
彼女の両手が差し出され、そして流星は駆け出し、麻美を抱きしめようとした。
麻美の瞳に 涙が浮かぶのが見えた。
彼女の唇は何か言わうとして・・・
流星の腕は、ただ空を切る。
「麻美!?・・・・」
流星は足を取られて砂の上に転がった。
握りしめた挙から、さらさらと砂が溢れ落ちて、吹き始めた陸の上からの風が舞い散る。
海原は夕陽の最後の輝きを受け、わずかなきらめきを浮かばせ、揺れている。
あきらめきれないままに座り込んだ彼に、海鳴りと、松林を抜けて来る風だけが残った。
麻美の声は、もう聞こえない・・


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