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リーダーの心得とはなんでしょうか?

組織はリーダーの力量以上には伸びない(http://野村監督.com/2500/ )。「野村監督」で知られ、つい先日亡くなられた野球評論家の野村克也氏の名言とされる。企業であれスポーツであれ、社長であれ中間管理職であれ、リーダーが心得るべきポイントは、自分を超えて組織は動かないということだ。もちろん組織はリーダー一人ではできないことを実現するために作られるのだから、自分のできること以上の量を実行するに決まっている。野村監督はこれを組織のメンバーはリーダー以上に「伸びない」から、リーダーが学び続け自ら成長するようにという趣旨で伝えている。私は、リーダーが「知っていること」と「知らないこと」の違いが大事だと考えている。組織はリーダーが知らないことを実行できない。

リーダーが「知っていること」と「知らないこと」
リーダーが自分で知っていること以上のことを組織が行うことができない理由は、組織のメンバーがリーダーの評価のために行動するからだ。組織に所属する個々人は、自分の家族を守るために働くなど、組織の目標とは異なる目標を持って所属する。しかし(だからこそ)、所属員は、組織の持つ目標に合致するように、リーダーが適切に評価するように行動する。仮に会社や組織にとって良いがリーダーが理解していないことを所属員が発見したとしても、リーダーに教えて説得してわかってもらって行動する必要がある。リーダーは所属員を使って成長し理解すれば、組織として実行し成果を獲得できる。リーダーが組織内のコミュニケーションを良くし、自分の知らないことを受け入れやすくしていれば、このようなボトムアップによる自分と組織の成長を享受できる。

しかしこのようなボトムアップの組織運営と成長期待にはふたつの問題がある。ひとつは、所属員が必ずしも組織の改善や向上を望むとは限らず、上司の説得を面倒に思う可能性があることだ。これはリーダーがその可能性を知っていればある程度組織運営(組織カルチャーのマネジメントと呼んでも良い)でカバーできるだろう。それでも下から上へのコミュニケーションには普通時間がかかる。しかしそれ以上に問題なのは、所属員もリーダーも新しい環境の変化や見かけたことの重要性に気づかず、組織が適切に動かないことだ。つまり、リーダーがボトムアップ中心に環境変化に対応しようとすれば、組織員あるいはリーダー自身が「知らないこと」には対応が遅れるか見過ごすことになる。

ここで、「知っている」ことの対象は、単純な知識だけではなく、行動規範(行動すべき方向)を含む。例えば、環境変化への対応だけ見ても、この会社とは何でどんな事業領域を深堀りし、新規事業拡大の領域を考えており、環境とはどんな競争相手や商品を想定しており、どんな変化が自分の事業領域や競争環境に影響があるのか、どのくらい重要なのかを判断する基準を持っているかを含む。


ビジョンの共有
そこで、組織の最上位のリーダー(例えば社長)は、行動規範となるように、会社の存在意義とそれを実現するための長期ビジョンを持ちかつ明確に組織員に提示する必要がある。組織の中間にいる管理職も自分の下の組織が全体のために正しく動くように、ビジョンを共有する必要がある。組織員はそれぞれが自分自身の生活の目標を持っているのだから、組織の中ではその意義やビジョンの範囲で最適な行動をすればよい。
会社において、リーダーは、まず会社の存在意義を明確にする。自動車会社はガン治療薬を作ろうとしない。ガン治療薬に社会的意義があるのは明らかなのに、だ。製薬会社は電気自動車を作らない。CO2削減に効果があるとわかっていても、だ。自動車会社の社員はガン治療薬について何か学んでも、会社の組織に持ち帰って上司を説得しなくて良い。会社の持つ存在意義や得意さによる事業領域の選択、販売先の拡張方向などのビジョンなどそれほど明確でなくても想定できるからだ。しかし、電機メーカーは電気自動車を作るべきか、塩ビパイプメーカーは住宅を作るべきか、となってくると、組織の存在意義や戦略ビジョンは重要になってくる。新しい事業の柱を探すリーダーのために、組織員が適切に働くためには、リーダー自身がその組織が何をすべきか知っており、どういう方向に進むかを知っており、それを組織員に伝えている必要がある。そうすれば組織員も視野を広げ、イノベイティブなアイデアや情報を組織に伝え始める。

ところで、上場企業の経営者から見ると、顧客、従業員、取引先、銀行、政府、株主は、会社に対してそれぞれ異なる目的で関係を持つステイクホルダーだ。それゆえ、経営者は、従業員(直接の組織員)だけではなく、他のステイクホルダーに対しても同じように存在意義やビジョンを示すことが求められる。私は、機関投資家として投資対象としての会社の経営者について考えることが多い。投資家は、議決権行使を通じて、会社の経営者を選ぶ。そのためには、過去の結果として示される財務諸表のみならず、リーダー(経営者)の心の中を知りたいと考える。未来を決めるのはリーダーの意志に導かれる組織の行動だからだ。直接会話できる経営者は少ないので、開示情報の中に、非財務情報としての会社の存在意義や戦略ビジョンの説明を探すことになる。残念ながら、多くの企業でこのようなリーダーシップの観点からステイクホルダーの適切な行動のために記述してくれていないように感じる。ビジョンが適切に伝われば、投資家は競合他社についての自らの比較分析結果を伝え議論してくれるかもしれない。

ということで、かくもリーダーであることは難しいことなのだ。私は組織のリーダーにならないように気をつけてきたし、長らく部下を持たないで仕事をしている。組織のリーダーになる自信はまったくない。


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