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まえがき(の後編)

(前回「まえがき(の前編)」からのつづきです)

投資とは、リスクを取りますが、賭け事ではありません。
世界を見渡して幅広く株式や不動産に投資することは、世界経済(一時的低迷の可能性はありますが、まだまだ自動運転やらロボットやら発展しそうだし、アフリカや南アジアだって発展しなければならないでしょう)の成長とともに自分の資産を成長させることです。
これを言い換えると、自分が引退して働かなくなっても幅広く世界で働く若い世代の成果を分配してもらえるということです。数少ない会社の事業の成長に期待する個別銘柄への株式投資とは違って、少ない資金でも世界中のさまざまな投資機会に日本にいながら自分に便利な近くの金融機関と取引するだけで投資できる投資信託の存在意義も感じていただけるでしょう。

投資する私たちにとって、世界経済の成長に参加することとは、世界の会社経営者の努力を期待して株式を買い、不動産管理者がロビーをリノベートしたりして魅力を高める努力を期待してREIT(不動産投資信託)を買うなどすることです。
誰が経営しても事業リスクはあります。そのリスク部分を資金の出し手として引き受ける代わりに、世界中の経営者や不動産管理者の努力の成果を獲得するのが投資です。
もちろん特定の会社の株主になったり、あるテーマに沿った株式だけに投資したりすることもできますが、それは投資先になにか特別の知識や自信を持っていることが前提となるでしょう。しかし、現役世代が特別の知識や自信を持っていることというと普通は自分の仕事に関係することになってしまい、そうした業務に関わる株式や自社株に投資してしまうと自分のボーナスと投資先のリスクが集中してしまいます。
世界への投資はそのような知識や(しばしば過剰な)自信によるリスク集中を矯正してくれます。

「良いリスク」あるいは「良い意味でのリスク」とは、そもそもリスクを取るほどその報酬・収益が大きいと(少なくとも前もっては)期待できる人々の努力に裏付けられていること、個別企業などの事故や事件の影響が小さくなるように、世界中のいろいろな資産に分散されていること、だと考えます。これが賭け事と違うことは明らかですね。
もちろん金融以外に勤める人が金融のプロ並みに勉強して知識を身につけ、余裕資金に借金もプラスして、分析結果をもとに大きなリスクで大きなリターンを取ろうとするという人もいらっしゃいます。また仕事として取り組むデイトレーダーも否定はしません。
ただし、ここで私が投資と呼ぶものとは違います。テレビの技術者になるのではなく、テレビを見る人になろうという例え話を思い出してください。

退職金を手にした引退世代はどう考えたらいいでしょうか。
投資とは潤いのある生活のためのキャッシュフロー(実際に入ってくるお金と消費して出ていくお金)のデザインです。定期的に分配金を受け取ることができるように、株式中心の運用は(脳の衰え防止としてでも消費としてやりつつでもいいのですが)減らして、安定した債券中心あるいは不動産の家賃が入ってくるREITなどに配分するタイミングかもしれません。引退世代としては、分配金を受け取りながらも、他の人に働いてもらう証券投資の仕組みを最大限利用したいですから、株式も含めたバランス型に投資したりするなど資金配分を考えることが重要になります。
現役世代だったころから投資をしていなかったとしても、備えとしての貯蓄と潤いのある生活への投資とに資金を配分し、まずは90歳までの資金の流れをデザインしていくとよいでしょう。これは、80~90歳の人に長期投資はないという意味ではありません。これから100歳を越える人が普通になるのですから、金銭面では長生きリスクが存在します。そう簡単に資産形成のための長期成長投資を忘れるわけにはいかないでしょう。

退職金が入って意外に余裕があることに気づき「頭の体操」「脳の機能低下防止」として新聞を読み込み、株の銘柄掘り起しをして株式に資金を投じることを、ここでは投資とは考えません。お金が増えるかどうかは別として、これは脳の機能低下防止を目的とする消費だとみなします。
個別の株式を、たとえば5銘柄程度持つことは、ある会社の事業や経営者・次の経営者に大きく依存していて、一般的・長期的に信頼できる世界経済全体の成長や世界中の不動産の家賃収入の安定などの投資機会とは性質が違いすぎます。
幅広く世界中の投資機会に分散して適切に取るリスクが、「投資ってなんだ!?」と問われた時に「潤いのある生活のために」取るべきと私が考えるリスクです。

これから、投資とはなにかをいろいろな方面から考えていきたいと思います。経済学での投資ではなく、あなたにとっての投資を考えます。
まず投資の目的を明確にしましょう。病気や最低限の生活への備えを貯蓄と呼んで別にしてみましょう。
そうすると、意外にも私たちの多くは生命保険なども含むさまざまな仕組みですでに貯蓄をしていて、それ以外の潤いのための資金についても考えて良いことに気づくでしょう。それこそリスクを取って増やしていくに値する部分です。
そして、世界株式や不動産投資はなぜ賭け事ではないのか、事業リスクと賭け事の違い、株式の夢と希望、リスク分散の大事さを考えていきましょう。現役世代は自分の仕事に集中する一方、引退世代はいまさら働けないから引退したわけです。投資とは、誰かほかの人が働いて努力する成果を、事業などのリスクを分担することで獲得できるということです。いま消費しないお金をいま事業などに投入したい人に回すのが投資の社会的な意味です。世界に目を開き、先進国の新技術や新興国の元気な成長の成果を、幅広く自分の潤いのある生活に貢献させていくということです。それが自分の生活の「潤いの部分」につながっているわけです。
そして我田引水とのそしりを免れないとしても(投資信託会社の社員ですので)、少額でも幅広い対象に専門家の知見に基づき投資できる投資信託こそがこのようなニーズにもっとも適切にこたえる金融商品ということになります。評価上の利益が出たり損失が出たりしたときにどう考えるべきかなどにも考えを進めてみましょう。

仏経済学者のトマ・ピケティは著書「21世紀の資本」の中で様々な重要な事実を提示してくれました。その中に投資の観点からとても興味深い例があります。
ハーバード、イェール、プリンストンなど運用資金額の大きい大学の資金運用の成果は、小さい大学の成果よりも良かったというものです。大きな資金を集めてプロが運用するかどうかが運用成果という格差のもとになるという趣旨です。小さな資金でも集めて大きくすれば質の良いプロが運用を考えてくれます。また世界中の株式のみならず不動産、社債、ヘッジファンドなどさまざまな投資先に分散することもできます。
何もしないことが格差のもとになるとしたら残念です。いろいろな機会を学び適切な投資をすることは、個人にも社会にも良いことだと思います。

ここでお伝えしたいポイントは以下の通りです。

  • 投資について、詳細に勉強しなくてよいはずだし専門家になる必要はない

  • 「まとまった額になってから」ではなく、いまあるお金から投資する

  • 投資は、引退後の潤いのある生活のため。貯蓄は、医療費や学費などのため。

  • 例えば、「良いリスク」で投資の目標は年間3%とすると、10年間で3割、20年間で6割増えると期待できる

ではまず投資の前提となる「潤いのある生活」について考えることから「投資ってなんだ!?」をスタートさせましょう。

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