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「人を見抜く」前に自分を見抜く

私は、面接と書類で人材を見抜くことはそもそも不可能への挑戦だと考える。情報が相互に不完全でしかないこともある。さらに、そもそも「見抜けない」理由について考えると、「採用するほうが自分を見抜いていない」ことに行き着く。

新卒や中途など会社が人を採用したい場合、書類と面接に依存することが一般的だ。これは日本に限らず世界的にそうだろう。これは「できるだけ適切に」採用するために不可欠だが、そもそも完全無欠なはずはない。書類が本人の知識や経験を簡単にまとめたものと考えるならば、一緒に働ける人柄かを知るためには面接が不可欠だろう。それでもお互いのすべてを分かり合うには時間的制約もあり、結果として契約における情報の不完全さが相互に残ることは避けられない。

しかしそもそも面接が有効ではない理由はたくさんある。例えば、新卒では人事部が採用の中心だろうから採用して配属しても「問題がない」「怒られない」人を選ぶインセンティブがある。「まさにこの人」が配属でやって来る可能性はそれほど高くない。では中途・経験者採用で直接働く部署が面接すればよいかというと十分ではない。部署メンバー総出で面接しても、「よくわからない」「ボスが気に入っているらしいから忖度する」ことになりやすい。たくさんの面接をしてもうまくいかないと、「ほらだからそう思ったのよ」的な(よく考えると組織に対する)陰口だけが大量に残りかねない。

面接が有効ではない理由は他にもある。その組織に明確なビジョンがないことが多いから、面接相手に正しくこちらのニーズを伝えられない。経験がありそう、人柄が良さそう、という認識が正しくても、候補者が自分が活躍できる会社・組織だと誤解して入ってくると、「こんなはずではなかった」と定着できないことになる。結果として正しい人を採用していない。採用する側が明確に採用の意味と業務分担のイメージを持ち、入ってきた後に単に仕事を振るだけではなく、組織の目的に合わせて本人の能力などを使っていく意欲がないと、適切ではなかったことになる。

さらに、人も組織も変わっていく。未来のことはわからない。情報の不完全性というよりも未来の不確実性が問題だ。候補者の能力もやる気も現時点では適切でも家族構成の変化で仕事への態度が変わるかもしれない。組織がリストラされれば、関連する仕事もなくなるかもしれない。組織と本人だけではなく社会環境の変化も人や組織に影響を与え、価値観や判断を変えていく。

これらの問題に解決策があるとすれば「人材を見抜く」などという不遜な態度を捨てることだ。(5回転職した筆者としては)面接や書類でわかる事はお互いに限られている。会社によりさまざまに異なる採用プロセスを経たが、これで自分の必要十分なすべてを見せたと思ったことはないし、採用側のことをよく理解したと思ったこともない。仮に現時点で分かったとしても、どうせ未来のことなどわからないのだから、ある程度努力したらあとはお互いリスクを取るしかない。つまり一人ひとりの採用は、主に時間的制約で運の良し悪しに依存している。

人材を見抜くことはある程度あきらめたら、良い人が組織に来るように、以下について考えたい。
① 面接の回数は多いほどよいが、面接者が「自分の仕事相手として適切か」を考え、必要であれば拒否権を発動する。拒否権を持たせることと、忖度せずにそれを使うようにすることは、そもそも採用する組織の経営力の問題だ。
② 面接担当者が採用候補者に組織の目的やビジョンを伝えることができるようにする。これも、採用する組織の経営力の問題だ。
③ 採用候補者に前もって考えるべきこと、話して欲しいことを適切に伝えておくこと。身勝手な自己紹介やPRではなく、特定の組織の目的と必要とされている能力を前もって伝えて、面接担当者もよくわかっている状態にすることは、採用する組織が適切なビジョンを持っていて、メンバーにシェアされている前提が必要だ。メンバーの理解に沿って候補者が自己PRをしてくれると良い。

簡単にまとめると、1回ごとの採用は運の良し悪しに左右されるが、たくさんの採用結果の確率的な良し悪しは、その組織の程度に依存する。人を見抜く前に自分を見抜いておかなければ、採用がうまく行くとは思えない。組織が必要とする人材を明確にして、メンバー全員が自分の問題として面接に参加し、できればすべての人が正直に良いと思う人に巡り会うまで手抜きをしないでがんばることが適切だ。組織には正直に話せて、議論できる空気が必要であり、メンバーの行動規範が明確でそれを人に伝えることができなければならない。

「良い人材を見抜くために相手のどんなところを見ているか」、という設問に対しての答えは、採用者が採用の目的や組織のビジョン(目的)をよく知って、自分の目的を話しながら候補者の質問や自己PRをその文脈において引き出すこと、たくさんの面接が行われ、その結果が相互にチェックされること、面接の間に次に知りたいことが面接担当者から候補者に伝わっていて、無駄な挨拶や世間話での探りなどの必要がないこと、を挙げておく。見るべきところ、見られるところを多数の面接者と候補者が知っていることが求められる。

ずいぶん昔、大学の卒論のために「ジョブサーチ理論」を学んだ。仕事を探す人は「給与水準など働く条件(aspiration level)を、探す日数が増えるほど引き下げていく」という仮定が印象的だった。条件のレベルを下げれば仕事に就く確率は上がるが、幸せそのものは高くならない。もっと探すと不安が高まり幸せになれない。かくも人は幸せになりにくいのかと印象深かった。



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