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短編小説、書いてみる会

松江の書店、書架青と緑さんにて開催された会に参加してきました。

小説というよりエッセイになってしまいましたが、私が書いたものを忘備録として載せてみようと思います。


『あらがい』

背中が痛いのです。息もできないくらいに。

きっと同じ動きをしていたからだ、と悟った。
思えば、秋の番茶刈りの頃から腰痛はあった。

元々私は姿勢が悪い。
その上島根にUターンしてからは、歩くことが極端に減ってしまった。
どこへ行くにも車である。

実家のある出雲でさえそうなのだから、今暮らしている雲南の山間の地域なんて、もっと歩くはずないのである。

茶畑の仕事にはシーズンがある。
シーズン中はそれなりに動くのだが、特に作業のない冬になると、怠け者体質これがめっきり動かないのである。

そんな動きのない中突然やってくるのが積雪だ。
我が家は多い時は下手したら膝丈ほど積もる。

我が家の木戸道は100m。私道なので除雪車は入ってくれない。

旦那は平日は1日仕事に出ている。
運良く週末や祝日に被って降ってくれるといいのだが、今年は平日に3日降り続けた。

もちろん、100メートルの木戸道5時間ソロ雪かき耐久レースである。

1日、2日と続く雪かき。
背中の痛みの予兆、怪しいと思いながら続ける。

3日目、ついに息が苦しくなるほどの背中の痛みに発展してしまった。

雪かきで使うのはスコップ一本。
スノーダンプという大きめの除雪の道具もあるのだが、私は体力にはそこそこ自信があるが力がない。たくさん雪を掬った重いスノーダンプから、雪を降ろすことができないのだ。

左手を上側に右手を下側でスコップを持ち雪を掬い、スコップに入った雪を左の方向へと投げる。
これを延々と繰り返すのだ。

背中の左側に出た酷い痛みを、友人の営む鍼灸院で緩めてもらうために向かった。

姿勢が悪く凝り性の私は今までも時々鍼灸院を訪れていたのだが、今回のは相当ひどかったらしい。
筋が骨みたいに硬くなっとるよ、と言われた。

それから連続して5回ほど鍼灸に通っているが、未だ完全に解れずである。

しかし怖いのはここからだ。

「れいこさんは細いから、背筋と脚を鍛えた方がいい」と友人の鍼灸師は言う。
歳とったおばあさんで、尿漏れはまだましで、子宮が飛び出してしまう人がいるらしい。

鍼灸で緩めたとて、姿勢や筋肉を付けるなど生活改善をしなければ、結局同じことの繰り返しなだけなのだ。

そして恐怖に震えた私が始めたのは森光子ばりのスクワット。

それに加えて、同じく普段歩かなくなった旦那と、毎朝ラジオ体操とウォーキングを始めたのである。

お互い1人では続かない、利害関係の一致である。

毎朝、ガレージの前でラジオ体操第一を夫婦で行い、我が家から急勾配の坂を下って公民館まで行き、またその坂を上がって戻ってくる。
長くはない距離だ。

ちょっと間違えている旦那のラジオ体操を横目に見て、一緒にウォーキングを始める。

公民館の引き戸の鍵の部分を彼がボタンのように押すのが折り返しの合図になっている。

そして登り坂の途中なぜか彼はジョグのような格好になり、私の少し先を行くのである。

初日こそ焦って私もペースを上げたが、そもそも下半身を鍛えるために始めたウォーキング。
マイペースに下半身の筋肉に訴えるべく歩いてこそである。

ここ、ここに効いている!と思い込みながら、足を上げ、腕を振り、家まで帰る。

2人とも息が上がっている。

少し距離は離れているものの、彼のはあはあという息遣いが聞こえてくる。
そして私も漏れなくはあはあと息を切らせている。

いつかはこのはあはあが普通の呼吸のようになるのだろうか。
なることを願って、明日も私は下半身を鍛えるのである。
森光子を目指して。

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