●●さんへの手紙

(2013/12/24記)

 すこしご無沙汰しました。博論をベースにした原稿をお送りいただける由、楽しみです。

 博論は師匠への手紙であり、書籍は読者への手紙です。当然、求められる語り口も内容も異なります。必ずしも専門分野が重ならない身近な修士二年生をイメージし、その人に伝わるように構成、文章を手直ししてください。明晰な文章は意外とシンプルなモノです。

 同様に、明瞭で魅力的な章タイトル、見出しを意識してください。これを間違えるとせっかくの構成が、ただの情報の羅列に見えてしまいます。何をどう伝えたいかを、読者に理解してもらうためにも見出しは重要です。

 また、指摘する、強調する、~とされた、~といえる、など、論文でしか用いられないような言い回しや表現も、なるべく意識して減らしてください。

 以前、読ませていただいた抜き刷りの中に、主部と述部の動態や係りが不自然な文章を見かけた覚えがあります。英語が良くできる人にありがちなエラーなのですが、受動と能動の関係、主述が完結しているか気をつけましょう。

 ワードで横組みした文章が三行にわたるような場合は、文章を二つに分けた方がいいですよ。それから文頭の接続詞は、基本的に外しても成立することが多いです。どうしても必要と思える反語以外では使わないよう意識してください。

 読み手の心をつかむにはドラマが必要です。せっかく大きな歴史的流れ(骨格)をとらえても、それを生かし切るエピソードや人物像(肉)と、その連関や分析(筋)が不十分では、物語は動き出しません。自分が何を読者に伝えたいのか、それを如何に読ませるのか、を徹底的に考えてください。

 それなりの出版助成があれば別ですが、テニュアを持っていない人の博論に二の足を踏む出版社は珍しくありません。そのような状況下で書籍の刊行に踏み切るためには、内容面でも販売面でも積極的に読者の拡大を図っていただくしかありません。

 恩返しであろうとけじめであろうと、本にする以上、その第一義は「商品」です。できる限りのお手伝いをします。覚悟を持って取り組んでください。●●さんならできると信じています。頑張ってください。

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