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登りの強さは何で決まるか?

登りの強さは何で決まるのか。マラソンではVo2max、LT、ランニングエコノミーの3つがパフォーマンスを決定すると言われるが登りではどうなのか。持論を展開します。

まずは3要素の簡単な説明。もっと詳しく知りたい人はググるとたくさん出てきます。
・Vo2max:どれだけ多くの酸素を取り込み、使ってエネルギーを生み出すことができるか。肺で取り込んだ空気から酸素をこし取り全身の隅々の細胞まで届ける総合的な能力。心臓の強さ、毛細血管の密度、ミトコンドリアの量と質が関係する。
・LT(乳酸作業閾値):血中の乳酸濃度が急激に高まるラインのことを言います。一般的に4ミリモル。この強度ではアマチュアなら30分、トップ選手でも1時間しか運動を継続できない。要は10km〜ハーフマラソンくらいの強度。このLTでどれだけ早く走れるかが大事。
・ランニングエコノミー:いかに少ないエネルギーでスピードを維持することができるかという能力。ランニングフォーム(バイオメカニクス)、身体的特徴、代謝能力、気温、湿度、メンタル…たくさん要因が含まれる。

では登りではこの3つはどう変化するか。
答え:ランニングエコノミーが小さくなり、Vo2maxがより重要になる。


ランニングエコノミーが重要でなくなる理由

一言にランニングエコノミーと言ってもたくさんの要素が含まれる。ここではランニングフォームにフォーカスした話になる。マラソンでは足のバネをうまく使った消費エネルギーの少ない走りが重要になる。バネを使った走りとは?接地した瞬間にアキレス腱が伸ばされることで弾性エネルギー(ゴムを引っ張った時にたまるエネルギー)が溜まり、解放された瞬間にポンッと弾むように進む。短い接地時間で瞬間的に地面に力を加えてその反発を得る走り。アキレス腱が長く弾性エネルギーを溜めやすいアフリカ勢の走りがこれ。逆に効率の悪い走りとは、接地時間が長くベタ足で地面をギューと踏み続ける走り。かかと接地(かかと接地を否定しているわけではない)でドタドタした感じの走り。同じスピードで走っていても消費しているエネルギーは前者の方が格段に少ない(効率的)。

こういったバネを使った効率の良い走りができる選手はパフォーマンスも総じて高い。しかし、山ではこのバネ走りができなくなる。なぜなら、登りでは接地時間が必然的に長くなるため、瞬間的にアキレス腱に弾性エネルギーを溜めて解放するといった走り方ができなくなる。代わりに大臀筋やハムストリングスといった大きな筋肉を自ら収縮させて地面を押して身体を持ち上げるといった走り方になる。マラソンでは効率の悪い走り方が登りでは正しい登り方になる。ランニングエコノミーが悪いあなた、登りで輝くチャンスかも!?自分のランニングテストの結果も見事にランニングエコノミーは皆無でした。

Vo2maxが大事

ランニングエコノミーの重要さが減った分、大事になってくるのがVo2max。心臓の強さがパフォーマンスに直結する。登りでは平地に比べて動員される筋量が増える。マラソンでも大臀筋やハムストリングスなど下半身の筋肉が大事なのは間違いないが空中に浮遊してる時間が長く、一回の筋収縮によって発揮するパワーもそこまで大きくない。一方、登りではパワーを発揮し続けないと進まない。身体を上に持ち上げるのに最も適した筋肉は大臀筋であり、大臀筋をどれだけ休ませずに大きなパワーを出し続けられるかによって登りのスピードが決まる。サイクリストやクロスカントリースキーなど大臀筋をフルに使う持久スポーツの選手はVo2maxも非常に高い(マラソン選手よりも高い)。ある実験では平地と登りで同じ強度でランニングをした場合、登りの方が足の筋肉に蓄えられたグリコーゲンの消費が多かったという結果が出てる。そして動員される筋肉が多いということはそれだけたくさんの酸素が必要となり、酸素を体の隅々まで届ける心臓の強さが重要になってくる。もちろんVo2maxには心臓のポンプ機能だけでなく、毛細血管の密度、ミトコンドリアの数や機能なども関わってくるので鍛え忘れなく。

実験結果による裏付け

マラソンにおいて、一般的には速い選手の方がVo2maxも高い傾向がある。が、同レベルの競技者間で比較した場合、必ずしもVo2maxが高いからといってタイムが速いというわけではない。例えばフルマラソンを2時間半~2時間15分で走るトップ選手間で比較した場合、Vo2maxが70で2時間15分で走る選手がいる一方、Vo2maxが80でも2時間30分の選手がいるという話。一方、登りではこの反転が起こりにくく、Vo2maxの値が高い方が素直にタイムも速い傾向にある。

実際の実験の数値でなく例
実際の実験の数値でなく例

参考論文
森 寿仁, 長尾 俊, 山本正嘉
陸上競技長距離において上り坂を得意とする選手の形態・体力特性
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcoaching/29/2/29_161/_pdf/-char/en

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