【クリミナル・マインド シーズン8】のぞき穴
「いいか? 日曜はデビルス・タワー見物だから、〇九、〇〇時に迎えにいくよ」
濃いブルー・ジーンズにカジュアルなブルー・ワイシャツを着た、体格の良い三十代くらいの男が通話を切った。
カウンター前の《カーン!》という——気前えの良いチップをもらったときの——ベルの喜びと同時に、まるでドラマ『アウトランダー』に出演するサム・ヒューアンを彷彿させる男が、地元民で喧騒するBARを後にしようとした——すると。
「すみません」肩にそぉっと手を添え、四十代くらいの小柄なブルネットの女性が話しかけてきた。
「あのー、突然ごめんなさい。車まで送ってもらえない?」
首まわりに小さな襟のついた花柄の半袖ワンピースを着て、自分はまだ若い女性よとでも言いたいのか、それにしては、どこか悲壮のただよう容貌だった。その小さなワンピースでも生地が余るくらい痩身な形をしている。
「考えすぎかもしれないけど、待ち伏せされてる気がして」
その女性は自分よりひと回りも若い男性を見上げながら、か弱い女性を守ってあげたいという男のプライドをくすぐってきた。
——これも人助けだ。
「……いいよ」と男は言った。
BARを抜け出したふたりは、夜も遅く、閑静な通りを歩いていくと、女性の黒い軽ワゴン車のまえに行きついた。
「この車」ヘッドライトに小さなヒップを向けて、女性は言った。
「誰れもいなかったね」
「前の彼れが荒っぽい人で、一生ビクビクすることになりそう」
「……」
「でも……助かったわ。ありがとう」
「……それじゃあ」ほんの少し、憐れみの視線を女性に向け、振り返った男は自分の車のところへ戻ろうとする。
「……ここの人じゃないでしょ?」女性は静かに帰ってく男を呼び止めた。
「……なんで、わかった?」また、女性のところに戻りながら、男はたずねた。
「だって、ほら、髪型も服装もおかしいし、それに、イントネーションも変」
好意的な口調で語る女性の瞳が、よりいっそう黒みがかる。
男は少しうつむき、鼻で笑った。
「冗談よ、レンタカーの鍵だから」
「鋭いな」男は三秒ほど、女性と目を合わせた。
「どこに泊まってるの?」
「ガントリー・モーテル」
「豚小屋じゃないの」
女性の皮肉な言葉に男は苦笑する。
「あたし、レッド・クリーク・ロッジの支配人なの。良い宿よ♪ ただで泊めてあげる」
「そりゃあ、悪いよ」
「いいの。親切にしてもたったお礼」
男は三秒ほど脳内のニューロンを活性化させると、これはリスクのない無上の幸運であると思うことにした。
「それじゃ……せっかくだし」
「あたし、テス」女性が右手をだすと、男も右手をだし「チャドだ」と二人は握手を交わした。
街灯でオレンジ色に照らされているコテージ寄りの大きなロッジの中にふたりきり。そこは一人用の個室の中だった。
「温度調節はそこ——予備のまくらはクローゼット」
「了解。——本当にいいの? タダで泊めてもらって」
「言ったでしょ、支配人だから好きにできるの。——今夜はひとりになりたくなかったし」
物欲しげな瞳でチャドを見つめると、テスはつま先の力を借りて、その唇へと近づいていく。やがて、麗しい口唇同士が出会い抱きついた。二人は吸い込まれるようにシングルサイズのベッドへ上がりこみ、仰向けになったテスを包み込むかたちでチャドは上になる。そして、そのまま、お互いの打ち上がる花火を求めて、ひとときの冒険に出たのだった。
そのしなやかな動きや、繊細に魅せる表情もすべて、向かいにあるウォール・ミラーがしっかり捉えている。が、その上にある鏡のフチには小さな穴が開けられていた。
——ハァ…ハァ…ハァ……
その小さな小さな深淵の奥には、盛りのついた思春期の少年にも匹敵する興奮の吐息が絶え間なく漏れていた。が、それは白いツバが生産されるものによってもたらされる昂ぶりではなく、ビッグ・バーンのごとく、突然、生まれた衝動的熱望。
それは、破壊——殺人への欲求であった。
男は今にも発射しそうなその欲求を、限界まで堪えていた。
瞳孔が悍ましいほど見開いた、その眼をのぞかせながら——。
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【見どころ要素↓】
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「夢は続く限り現実。では、この世は夢か?」
イギリスの詩人 アルフレッド・テニスン
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『インクハート』
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【感想】
これは、いかに子どもの脳で観れるかが問われますねぇ。
大人の常識をいったん、忘れる必要があります。
いちいち、突っ込まずに観ること(笑
【気づき】
①モルティマの妻——テレサ役。
クリミナル・マインドに登場するホッチナーの元奥さんだったヘイリー(シエンナ・ギロリー)でありました。
どうりで似てるはずです(汗
②カットシーンの長さ。
ほとんどが五秒以内で切り替わっています。
視聴者を飽きさせないようにするテクニックなんでしょうねぇ。とにかく、動きを見せる。動かない時は、話し手ごとに切り替えの連続。
今さら気づくという……。
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