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今すぐ使える文章術「具体化しない」【☆】

神里です。

今回は、たぶん誰でも簡単に使える文章術をひとつ紹介したいと思います。

今回のテーマは「具体的に書かない」です。


何も難しい話はありません。
単純な話で、具体的なことを書かずに文章を書き進める、ということだけです。

早速見ていきましょう。


例えば、何気ない日常のシーンがあったとして。
主人公が誰か友人に電話をかけるとします。
今日の午後暇だからとどこか遊びに出かける話でもする感じで。

さてこのシーンで、電話機の詳細を書くことはまぁないですよね。
そりゃそうだと思われるかもしれませんが、要はこれのことなのです。
このシーンにおいて大切なのは「電話をかける」「友人を誘う」などであって、電話機が固定電話なのかスマホなのか、どんな機種なのか、いつどこで買ったのか、そこにどんなエピソードがあるのか……こんな話は、一部例外を除いて、わざわざ書く必要はないです。
電話をかけた、と書けば読み手が勝手に想像してくれるからです。

このように、詳細を書かなくても意味が通じ、読み手が想像して影響がないもの、はわざわざに書かないほうがいいです。
こういう余計な情報が沢山書かれた文章は非常に読みづらく、スムースに読む邪魔になります。

勿論例外はあります。
この時点で電話機を印象付けたい場合などがそう。
例えばこの後の話の展開として主人公の携帯が別の人のものとすり替わるが機種が同じだから暫く気づかない、なんてものだとすると、ちょっとした伏線の一部のように使えますよね。
この場合はむしろ書く必要があるわけですが。


いやいや神里さん、こんなんいちいち言われなくてもわかってますよと。
こういう声が聞こえてきそうですね。

この例は物凄くわかりやすいというか、そりゃそうだろと思ってもらうための例なのでそう思っていただいて正解です。

しかしこれ、結構やってしまってる人は多いです。
特に設定魔なタイプの人は注意した方がいいかも。

読み手が自由に想像しても問題ない場合や、むしろそうさせたい場合は、わざわざ詳細な情報を書かなくていい=具体化しない


もう少し突っ込んで考えてみましょう。

主人公(男)は友人二人(男)を誘い、海へ出かけました。
主人公達の家からおおよそ20kmほど離れた所にあるその海は、毎年7月10日と早い時期から海開きをすることが決まっていて、7月中から多くの人でごった返します。しかし反対に、くらげが出る時期が早い為8月の10日頃には海へ入らないよう呼びかけられるそうな。
照りつける太陽に目を細めながら、主人公達は目前に広がる青い世界に感嘆の声を漏らします。
いつの間に離れていたのか、友人の一人がサメの姿形をした浮きを借りてきていました。「女子か」と二人でツッコミを入れつつも、久しぶりにこれに乗って遊ぶのも悪くないかなんて思ったり。
しかしこのサメの浮き、聞いて想像できるアニメチックなデザインではなく、まるで本物のサメのようなリアルな風貌をしています。友人のセンスがイマイチよくわかりません。もしかしたら、男子三人で遊ぶわけですから、この手の見た目の方がまだ様になっているだろうと、気を利かせてくれたのかもしれませんが……真意はわかりません。
「そういやあれ」と友人の一人が海の向こうを指差します。その先、おそらく海に浮かぶブイを指しているのでしょうけど、主人公はそれより彼の指の爪が長い事が気になりました。
「去年よりも距離短くなってるんだぜ」
主人公の気がかりを他所に、友人は言葉を続けます。
そういえばと、主人公は去年あった事故を思い出します。この海は広い範囲に浅瀬が広がっている特長がありますが、ある地点から急に底が深くなり、毎年溺れてしまう人が何人か出ているのです。


……いや、はよ海行けや!!!
と言いたくなりますが。
勿論、わざと色んなものを無視してごちゃごちゃ書いてるわけですが。

この文章を整理する場合、あなたならどうしますか?


早速ですが……この問いに正解はありません。
何故なら、取捨選択の問題だからです。

例えば、最初の「海は主人公の家から20kmはなれている」という情報も、後にこの距離を意識する事があるのだとしたら、不要とは言い切れません。反対に、特に距離に意味はなく読み手に意識させる理由もないなら、ここは削っていい部分です。読み手はただ漠然と「海で遊ぶ話が出るくらいだし、家から海は近いんだろうな」くらいに想像します。
他にも例えば、くらげの情報などは必要なければ全カットできます。しかしこの後の展開で具合を悪くする人が出てくるのであれば、語らずとも読み手が「くらげかな?」と思ってくれることに期待できます。ミスリードなどにも使えますね。
極端に言えば、この場では一切の情報を出す必要はないと、早速海で遊ぶシーンに飛んでもいいわけです。つまり全カットですね。

つまり、「その時点でその情報を出すことに意味があるのか、その必要があるのか」を考えたいわけです。
これを考えることで、(その時点での)文章を具体化せず読者の想像に任せることができます。

ここの例で言えば、海についての説明がないまま海で遊ぶシーンになれば、読み手は勝手に海の様子を想像します。
しかし書き手には書き手の思い描く海の様子があって、どうしてもそれを詳細に想像させたくなってしまいます。自分の思う様子をそのまま想像してほしいと思うからです。
その気持ちは痛いほどよくわかるのですが、全てにおいてそれをしてしまうと、センスある文章とはお世辞にも言えなくなってしまいます。
それどころか、読み手から想像する事を奪ってしまうと、とても退屈な読みにくい文章、面白くない話と思われてしまいかねません。
何もかもが細かく提示されたものを読む……まるで説明書でも読んでいるような気分になってしまいそうです。


「時間を忘れて没頭して読んじゃう」とは「読む事に集中している」ということ。
そしてこれは、こういった事が積み重なった「読みやすい文章」「(無意識にも)想像を書きたてられる文章」が書けていなければ、実現はかなり難しいです。


さて「具体化しない」という話がどういうものか、わかっていただけたかと思います。
しかし肝心なのは、じゃあどうやったらその技能を上手に扱えるのか、ですよね。

勿論、いきなりこういった技能を用いた文章を書いて100%の完成品を作る、なんて事ができればいいですが、そんな事ができる人はほんの一握りしかいないでしょう。本当にいるか?

手っ取り早く慣れるには、推敲しかありません。
まずはとにかく書いてみる。これがとても重要。
書いたなら、それを何度も読み返す。ただ読み返すのもいいですが、例えば「この情報この時点で必要か?」「後でこういう展開になるんだから、ここでこの情報仕込んどくか?」などと思いながら読み返してみると、具体化しない文章、読み手にうまく想像させる文章に仕上がることでしょう。

この、読み手に想像させる、とは大きく分ければ二つあるわけですが……そのうちの一つが、今回お話したことです。こちらから情報を出さないことで読み手の自由に想像してもらう、というやり方。使い分けが大事ですが、小説やシナリオを書くならこの技能は身につけておいて損はないです。


最後に注意!

今回の話はあくまで「具体化しないことで読み手に自由に想像してもらう」これを目的としています。
これと「簡素化する」は、似て非なるものです。

途中でも書きましたが、具体化しないために必要なのは、取捨選択です。具体化しないものはどんどん省きますが、一方、具体化すべき所はきちんと行います。その狙いも、読み手に没頭してもらうための仕掛けとしての行いです。また、ここで省いたものは捨てるものではなく、こちらからわざわざ言わないだけで、読み手の方で想像してもらうものです。
言葉遊びをするわけではないですが、簡素化とは「無駄を省くこと」です。具体化しないために省いたものは無駄なものではなく、こちらが出すのではなく読み手に引き出してもらうもの。つまり、必要なもの、なのです。

海の例で言うと、例えば山の情報を書いていたのなら、それは(後々必要にならなければ)無駄な情報。つまり、簡素化できるものです。
だって、想像して欲しいのは海の様子、光景ですから、近くにある山についてあれこれ思い描いてもらう必要はないわけです。
くらげの話なんかは簡素化と言えるかもしれませんね……8月の早いうちに海に入らないようアナウンスされるという話が出ていてくらげについて触れない場合、具体化しない、に該当します。

これの難しい所は、話を通してでしか判断できないものがあること。
海の様子は必須ですので最初から簡素化ではなく具体化しないという事だとわかりますが、他の情報については、この時点では不明であるものばかり。
だから、書いてから推敲するのです。その結果、簡素化だったという部分も勿論あるでしょう。
まぁこういう違いなんかは別に覚える必要はないです。自分がどういう目的で何をしているのかさえわかれば、それで十分ですからね。


加減が難しいと思います。
こういう事を考える一方で、もうひとつの「読み手に想像させるテクニック」は「想像の手助けになるよう書く」ですからね……正解がないとはいえ間違いはある、っていう文章の難しいところ。

これができるようになると、すっきりした文章が書けるようになります。
読みやすい文章、読んでいて時間を感じさせない文章、面白い文章が書けるようになります。

こういう視点からも、ひとつ取り組んでみては。


自分の書いたものを読み返すのは楽しいにゃ。

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