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高校野球総括:愛媛の「守りの野球」はさらに全国最低レベルとなった

夏の全国高校野球選手権大会は、0対0で史上初の延長タイブレークに入り、延長10回2-1で京都国際高校の優勝となった。今大会の総括をしてみたい。

タイトルが過激です(笑)。愛媛の野球関係者は怒り狂うかもしれませんね。でも、厳しい現実から目を背けてはいけない。

多くの方に読んでいただいた、この論考の続編でもある。

高校野球は、低反発金属バットの導入で、わずか半年でまったく違う競技のように変わってしまったと思う。

以前の高校野球というのは、特に夏の大会では例えば「10点を争う乱打戦」「7点差をひっくり返す」ような、「バカ試合」が多かった。

それを、まるでロックコンサートのような観衆が煽る「高校野球のフェス化」が起こっていた。

試合をしているチームも、既に2回でエラー乱発でスコアは6-5になってたりしたんだけれども、テレビのチーム紹介では、判で押したように「自分たちのチームは、まず守備からリズムを作り」という(涙)。軍隊式の思考停止丸出しで、観るに堪えなかった。

そんな中、全国屈指の古豪・松山商業を中心とする愛媛の野球は「緻密な守りの野球」を標榜し、少子化、地方の衰退で選手が集まらず弱いけれども、野球のレベル自体は高いと信じていた。

自分も、窪田欣也・澤田勝彦体制が築いた松山商業の「元祖・機動破壊」こそ、日本で頭一つ抜けた高レベルな野球だと思っていた。

この夏までは。。。。

ところが、今年の夏の甲子園、まったく野球が変わった。

守備のレベルがとにかく上がった。特に、タイブレークの場面で、それは顕著にみえた。

ノーアウトランナー1、2塁のタイブレークだと、まずはバントで2、3塁にランナーを進めるのが常道。ところが、そのバントが簡単に決まらない。

まず、ピッチャーがバントを簡単にさせないボールを投げてくる。野手も、前進守備、1塁手、3塁手の猛チャージでバントをさせない守備陣形。ピックオフプレーなどの守備戦術の駆使。果ては、早実の「内野5人」で絶対にスクイズだけはさせないというシフトまで現れた。

ただ、受け身に守るのではなく、守備で相手に圧力をかける「攻めの守備」が多くみられるようになった。

ノーアウト1、2塁から始めると、かつての高校野球ならば、一挙に守備が崩れて5.6点入ったりしたものだが、タイブレークで試合が崩れることはみられなかった。

外野守備もレベルが上がった。以前は、外野は長打警戒で塀の前に張り付いていたが、低反発バットで、バックホームでアウトを狙う局面が増えたのだろう。外野からの正確なバックホームで本塁クロスプレーになることを多く観た。

「奇跡のバックホームの再現」と称えられたナイスプレーも出た。

「攻めの守備」は、松山商の専売特許だった。相手が攻めているのだが、いつの間にか、攻めている方が圧力を感じてしまう守備だ。

その代表的な場面が、元祖「奇跡のバックホーム」である。

松山商業VS熊本工業の決勝戦10回裏。絶好のサヨナラ機を迎えた熊本工業が、次第に松山商業・澤田監督の采配によって、戦術の選択肢を狭められ、逆にプレッシャーをかけられる。その模様を詳述したのが、この記事だ。

記事を引用する。

『同点の十回裏1死三塁。松山商がとった満塁策は、攻める熊本工の打つ手を狭めた。1番打者の野田が、この回に実現できなかったシナリオを明かす。

「無死二塁から9番園村が犠打をして、1死三塁になった。(次打者の)僕は、田中監督から『3球目にスクイズのサインを出す』と言われていた」。決まれば、サヨナラ勝ち。優勝だ。

仮にスクイズを警戒されて野田が四球で歩かされれば、1死一、三塁。そうなったら、2番坂田には一塁走者との「ヒットエンドラン」が命じられるはずだった。併殺さえ逃れれば、俊足の三塁走者・星子が生還できる。2死一、三塁でも「重盗」がある。ベンチの腕の見せどころだった。

現実には、野田も坂田も勝負を避けられた。「全く頭になかったわけじゃない」と野田。しかし、満塁となり、本塁封殺を狙って前進守備を敷く松山商の内野陣を見れば、小技は使いづらい。

打席には3番本多。ベンチを出るとき、田中に呼び止められた。これまで1年間、打撃に関してアドバイスを受けた記憶はない。「なんだろう」

いつも理詰めだった田中から、ただ、熱く背中を押された。

「いつも通り、お前なら打てる」』

そして、本多の打球は吸い寄せられるように、ライト矢野に飛ぶ。奇跡のバックホームが生まれたということだ。

私が強く言いたいのは、松山商業の関係者、「攻めの守備」なんて忘れてるんじゃないですか?ということだ。

低反発金属バットが導入されることが決まった時、愛媛野球に光明が差すと考えた人は少なくなかった。私もそう思った。

ガンガン飯食って身体を大きくして、ブンブン振り回すパワー野球に圧倒されてきた愛媛の緻密な守りの野球の時代が再び訪れると期待した。

だが、その期待は、導入のわずか半年後に粉々に崩れ去ったといえる。

全国の強豪は、パワー野球ができないとなると、守備戦術を徹底的に磨き上げることに、あっという間に転換した。長時間の練習時間は変わらない。打撃練習の時間を守備練習に変えれば、すぐにできることだった。

身体が大きく、肩が強く、パワーもスピードもある才能豊かな選手が、守備の大切さに意識を向ければ、かつての松山商業のような「攻めの守備」は簡単に完成する。

才能に劣る、小さな愛媛の選手が同じことをやっても、手も足も出なくなる。むしろ、パワー野球の時代以上に、愛媛野球が活路を開くのは難しくなってしまったのが現実ではないか。

それでも、まだ松山商業が最先端の「攻めの守備」の戦術を進化させているならばいい。だが、現実は松山商業から「攻めの守備」など失われてしまっている。

今夏、県大会準々決勝で、松山商業は延長タイブレークで、守備が瓦解して敗退した。

相手に圧力をかけるどころか、プレッシャーに負けてしまったのだ。

「守りの野球」が進化する時代。愛媛野球は、「守り」において全国最低レベルになった。厳しい言い方になるが、愛媛の野球関係者は、これが現実だと認めるべきである。






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