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自民党のリアリティ:総裁選では「保守派」が重要だが、総選挙では「保守派」は重要ではない。

さて、岸田文雄新総裁による前代未聞の「総裁派閥外し」という、実に新総裁の「いい人」っぷりを見せられて、カネ、人事、公認権、利益誘導をすべて握る「新闇将軍・安倍晋三」が誕生したわけです。でも、誰が支配しようと、国民の生命と安全、そして生活が守られれば、それでいいわけですよ。その意味で、これから誕生する岸田政権が、どんな政策志向で進んでいくのかが、国民の関心となります。

これだけ安倍前首相の影響力が強くなると、かつての安倍政権の政策の延長線上になると考えるのが自然でしょう。安倍前首相といえば「保守」の代表のようにみなされてますので、政策は、岸田新総裁の本来の志向である「リベラル」ではなく「保守化」「右傾化」すると思われるかもしれませんが、そう単純ではありません。

安倍政権の国内政策は、ご存じの通り「女性の社会進出」「全世代社会保障」「教育無償化」「実質的な移民受け入れ(外国人単純労働者の受け入れ)」など、社会民主主義的な傾向が強かったわけです。これは「新アベノミクス」と呼ばれてましたね。実際は、保守派が不満を持つ政策も少なくなかったわけです。

経済政策「アベノミクス」も含めて、世論や社会情勢に対して「現実的対応」をするのが、安倍政権の特徴でした。この傾向は、岸田政権でも継続されると思います。

私の理解では、「アベノミクス」とは自民党の伝統的なバラマキ政策と同じもので、その規模が「異次元」だったということです。ただし、利益を得るのが基本的に企業レベルというのが、良くも悪くも特徴だったわけですが、それをより個人の利益増につなげようというのが、岸田政権の政策とされています。

個人レベルに利益を還元となると、結局、「新アベノミクス」のようなものになる。社会民主主義的な政策が打ち出されていくと思います。

「同性婚」「選択的夫婦別姓」などは、それに反対の高市政調会長の下で停滞すると思われるかもしれませんが、私は進むと思います。まずは、彼女が主張する「通称使用の拡大」からでしょうが、少しずつ確実に進むことになると思います。

なんだかんだいって、高市政調会長は女性議員です。彼女が要職に就くこと自体、日本社会にとってのインパクトは小さくありません。企業などさまざまな場面で、女性が役職に就くことが増えるでしょう。リアリストである高市政調会長が、女性初の首相を目指すために、それに鈍感になるはずがない。

また、特に「選択的夫婦別姓」は、女性のための政策というだけではなく、日本の人材活用、競争力強化の側面があります。そういう面で、高市政調会長が保守の立場を保ちながら、リアリティをもって進める可能性があると思います。

それ以上に、来たる衆院選、来年予定される参院選に向けた、自民党らしいリアリティが発揮されると思います。社会民主主義的な政策、「同性婚」「選択的夫婦別姓」などを進めると訴えることは、野党の存在を消すことになるからです。

また、自民党にとって、総裁選では「保守派」の支持が重要ですが、総選挙では「保守派」は重要ではないのです。自民党総裁選の候補者は、戦没者遺族会とか日本会議など、保守系の団体に一定の配慮をします。候補者だけでなく、投票する議員も、誰に投票したかを保守系の団体にみられることを意識します。

しかし、総選挙では配慮をしません。むしろ、都市部のサラリーマン、子育て世代、現役世代のいわゆる「中道層」の票を獲得することが、勝利につながります。保守層や、野党を支持する左派は、声が大きな人たちですが、実際はそれぞれ国民の10%程度ずつだと思います。大多数は、中道層なのです。中道層は、日常的に政治に声を上げたりしませんので、わかりづらいのですが、日本の「サイレントマジョリティ」であることはいうまでもないのです。

安倍前首相が長期政権を築いたのは、保守的な政策を断行したからではなく、保守層にリップサービスをしつつ、実際はサイレントマジョリティを意識した政策を実行し続けたからです。保守層が猛反対するのに、中小企業が望んだ「移民政策」を実行したのが典型です。それに、左傾化した野党が、サイレントマジョリティを失望させたために、選挙で連戦連勝だったのです。

なぜ、総裁選では一定の配慮が必要な保守層が、総選挙では重要ではないのか。それは簡単です。保守層は、たとえ自民党の政策に不満があっても、総選挙で野党に投票することはないからです。

だから、新首相になる岸田総裁も、保守の代表である高市政調会長も、保守にリップサービスは続けるでしょうが、実際には、サイレントマジョリティに対する現実的な対応をする、端的に言えば、社会民主主義的な政策は拡大することになると思います。それが野党を潰す策であり、自民党はなによりも権力のためのリアリティで動く政党ですからね。

ちなみに、高市政調会長に期待できることがもう1つあります。それは、コロナ禍で明らかになった、IT化、デジタル化の推進を着実に進めることが期待できることです。

高市政調会長がもったいないと思うのは、保守派であることが強調される一方で、総務相の在任期間が歴代成長で、デジタル化、通信政策、地方自治、サイバーセキュリティ等に精通し、巨大官僚を動かして政策を実行する実務能力の高さが、ほとんど無視されていたことです。

官僚からすれば、「岸田氏はいい人、河野氏は嫌い、高市氏は怖い」という評価だと聞きます。いい人では改革を断行できない、嫌われては改革しようにも人が動かない。一方、「怖い」という評価は、実力があるという意味です。

菅政権の河野行政改革・規制改革担当相は、ハンコを押すなといって、役所のハンコをなくして業務効率化を実現したものの、ハンコ業界を悪者にし、官僚にも族議員にも嫌われた。それでは、業務効率化という、役所の部長クラスが旗を振ればできることは実現できても、官僚も政治家も動かせず、大改革はできなかったのは当然です。

高市政調会長には、そんな薄っぺらいパフォーマンスではない、本格的な行政改革、規制改革、デジタル化が期待できると考えています。

その意味では、誰がほんとの支配者とかいう問題はさておき、日本が遅れに遅れてきた部分の改革は、進んでいくんじゃないかと思います。そこさえ進めば、日本の様々な人材が持っている、本来の力を発揮できる環境が整う。日本には能力の高い人は多くいるのです。ただ、それを発揮するには旧態依然としたものが居座りすぎていて、窮屈すぎたのです。それが変わっていくのであれば、日本の未来は決して暗くないと思います。






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