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三連作『片恋』解説

”片思い”をテーマに、三連作の恋短歌を作りました。
恋の始まりから片恋の苦難を経て、やがて思い出へ昇華してしまうまでを、分厚いクッション紙に手刷りで活版印刷し、表現しています。

手刷りならではの風合いが活かされた作品に仕上がりました。
どうぞ、以下の作品画像とともに解説をご覧くださいませ。
(各画像はクリックで拡大表示可能)

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1.《片恋-目覚めの蕾〜夢の終焉- I》

”私の心に貴方は突然舞い降りた。まるで恋文のように”

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連作『片恋』の一作目である本作は、上記写真にて確認できるように、サブタイトルである『目覚めの蕾(つぼみ)』『悲嘆(ひたん)隠せども』『夢の終焉(しゅうえん)』を上から順に内包している。

また『目覚めの蕾』そのものをあらわす作品でもある。それは突然恋文が届いたように私の心をノックする。


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テフート式活版印刷機にて一枚一枚手刷りされたカード、そのすべての同じ部分に(歌により意味は違えど)”あなた”という単語を配置することで、この連作の親和性、そして本作における”あなた”のインパクトを表現した。
私の心は一斉に開き始める春のつぼみのごとく、貴方に占められているのだ。

”春蕾 薄くれないの優しさは
彼方の庭の 誇るが如く”

”はるつぼみ うすくれないの やさしさは
あなたの にわの ほこるがごとく”


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さて。
実際手刷りの活版印刷機とはどんなものだろう、と思われた方もいらっしゃると思う。
二作目の解説へと移る前に、ここで少しばかり印刷機の紹介をしたい。

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これは私が実際に使用させていただいた、”テフート式(テフーキンとも)”という、小型の活版印刷機(以下”テフート”)で、A5サイズくらいまでの印刷が可能だ。
オレンジの花柄格子部分に版を貼り付け、その手前に紙を挟む。
左側のレバーをガシャンと手前に引き押せば、ローラーが上下し印刷が出来るという仕組みになっている。
拙い説明ではあるが、少しでも活版印刷に興味を抱いていただけると嬉しく思う。


閑話休題。
さあ、二作目の解説に移ろう。

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2.《片恋-悲嘆隠せども-》

”私の心に貴方が刻みつけられる。強く強く孔(あな)を開けるほどに”

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二作目である本作は、想うほどに深く刻まれる悲嘆(ひたん)を、同じくテフート印刷だけでシンプルに表現している。


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本来の活版印刷では、裏まで凹みが到達するのをよしとしないが、本作ではこれでもかと言わんばかりの深さで刻んでいる。これはテフートの凹み限界、そして紙の大きさ限界に挑戦する、手探りの戦いでもあった。

一見したところ、片恋であることの切なさ辛さは、表面上何もない満ち満ちた望月(もちづき)のように、明るく隠されている。それでも心の中では深く……そう、月夜が明るければ明るいほど濃く、影を落としているのだ。

”望月の 蒼き空見て 焦がれ溶ける
貴方の顔 吾は映らまじ”

”もちづきの あおきそらみて こがれとける
あなたのかんばせ あは うつらまじ”

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3.《片恋-目覚めの蕾〜夢の終焉- II》

”私の心は貴方に届かぬまま、やがて風化していくことだろう”

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連作『片恋』の最後である本作は、一作目と同じく、サブタイトルである『目覚めの蕾』『悲嘆隠せども』『夢の終焉』を上から順に内包し、また先の二作とは真逆に、その心情すべてがあらわにされている。
何故ならば本作は『夢の終焉』そのものをあらわす作品でもあるからだ。
どうしても届かぬ想いは時が過ぎゆく中で風化し、人生の中でアルバムのように貼られてしまうのだろう。

左はテフートによる手刷り活版印刷(クッション紙)。
右は”物語”を綴るにふさわしい”原稿用紙”を使用し、レーザー印刷と炎・紅茶染めでそれぞれの心象を表現している。

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あんなに心焦がした日々も

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時は容赦なく彼方(あなた)へと久しく連れ去ってしまう。

”届かぬは 恋わずらいの嘆き袖
あなたの夢の 今は久しき”

”とどかぬは こいわずらいの なげきそで
あなたの ゆめの いまはひさしき”

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いかがでしたでしょうか。
誰もが一度は片思いを経験したことがあるかと思います。
そんな思い出を心に重ねて、これらの作品をご高覧いただけますと、幸いに存じます。


■ 2020年4月11日 神野美紀 ■


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