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明るい庭で①-2

入院者専用のエレベーターに乗って私と両親は病室に向かった。
エレベーターを降りると、廊下までに二重の扉があって、看護師さんがそこを開けてくれた。
大声や暴れている人がいるんじゃないかなんていう勝手な妄想はそこで打ち砕かれた。

開放病棟の廊下を進み、看護師さんが重くて大きな扉の鍵を開けた。
目の前には、こじんまりとした宿泊施設のような空間が広がっていた。病院というより、グループホームに近いかもしれない。

扉から突き当たりの窓まで伸びたフローリングの床。入ってすぐにナースステーションがある。ナースステーションは鍵を2つ差し込まなければ開かない仕組みになっていた。
廊下にそって個室が並んでいる。反対側には戸棚やロッカーが並んでいた。
廊下の突き当たりには大きな窓があって、窓辺にはソファと机、本があった。

意外と怖くないところかも。

身勝手にもそう思った。

入院する部屋に案内された。
部屋にはベッドと机、椅子、本棚、そしてトイレがあった。
父が「ビジネスホテルみたいだな」
と言った。その通りだった。

荷物を看護師さんに預けて両親を見送る。
二重の強化ガラスの向こうで心配そうにこちらに目を向ける両親がエレベーターに吸い込まれていった。

着替えやなんかを済ませる前に昼食を食べることになった。
個室にわざわざ運んできてくれた。
この時の看護師の太田さん(仮名)という男性の看護師さんには、そののちたくさんお世話になることになる。

病院での初めての食事をみて私は驚いた。

身体科に入院していた友達が
「病院食は彩りもないし味もおいしくない。入院中の楽しみなんてご飯くらいなのに」
と良くこぼしているのを聞いていたので、これからしばらくおいしいものは食べられないんだな…と覚悟していたが、
焼きうどん
白菜の甘酢和え
水ようかん
が出てきて驚いた。
それらを口に運ぶ。
どれもしっかり味がついていて、とてもおいしかった。精神科だから食事に関してコントロールの必要がない人も多いのだろうが、それにしたってこんなにおいしい食事を毎日食べられるのかと驚いた。

食事のあと、採血と荷物の整理をした。採血をしてくれたのは水木さん(仮名)。こちらも男性の看護師さんだった。
水木さんは採血が苦手らしく何度か私の腕を刺した。
「ごめんよ〜」
と言いながら血を抜いた。その跡は拳大ほどの内出血が残った。
荷物の整理のために着替えてください、と院内着を渡された。薄い緑と灰色の服だった。手首と足首が見えるくらいの長さで、よく伸びる素材だった。
そして、
「下着は上は裸の上から着てね」
と言われた。
裸の上から!?!!?
と言いそうになる気持ちを抑えて
「分かりました。ありがとうございます」
と言った。
全然ありがたくなかった。

着替えると、持ってきたスリッパに履き替えるよう言われた。履き替えたスニーカーは他の荷物と共にロッカーに終われた。
メガネとペン、ノート、本の使用許可は出たのでそれらを部屋に持ち帰った。

そうして入院生活が始まった。

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