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学校図書館に関するニュースを見て思ったこと

はじめに


自分は20代半ば頃、図書館司書の有資格者として母校の中学校で図書支援員の仕事をしていたことがあります。
(臨時職員でしたので任期満了で退職し、その後は書店員になりました)
昔ちょこっとだけ学校図書館の関係者だった人間のひとりごとを聞いて下さい。
では本題です↓

学校図書館における資料の除籍数の報道を受けて

先日、某県の学校図書館における資料の除籍冊数について、報道で取り沙汰される場面がありましたね。
2018〜2022までの間に15校の学校図書館で11万冊の除籍があり、その冊数を知った人がニュースに「あまりに多くの本が捨てられた」とコメントしていました。

各校の除籍数の内訳については詳細が分かりませんが、単純計算で1校あたり大体7300冊、4年間でということなので、年間1800冊ほどの除籍があったことになります。

この件は高等学校でのことと聞いていますので、ここで学校図書館の所蔵平均冊数を確認してみましょう。
全国学校図書館協議会の2022年度学校図書館調査概要を参照します。

 2022年度調査によりますと、平均蔵書冊数(1校あたり)は、小学校10033冊、中学校11323冊、高等学校27378冊とのことです。
件の高等学校の年間除籍数は、1割ないほどと考えて良いと思われます。4年で4割…やや思い切った感はありますが、停滞しがちな学校図書館の所蔵に大鉈を振るうには納得の数字ではないでしょうか。

「追記」

この件、調べ直したら担当していたのは22校、担当は5年間だったようです。

22校で5年間となると、除籍されたのは11万冊とのことなので、単純計算で1校あたり年間1000冊の除籍になります。

高校の学校図書館の全国平均蔵書数は27000冊程度、年に蔵書の3〜5%程度の入替えが行われたと考えると、まあまあ手加減されて除籍しているのでは…と感想が変わってきました。

追記終わり 続きます↓

「学校図書館の資料は常に新しいものであることが望ましい」理由

件の報道に対して「本を捨てるなどけしからん」「古い本にも価値はある筈」というコメントが散見されましたが、実は、学校図書館の資料はなるべく新しい方がいいのです。
まさに今学んでいる子どもたちに、最新の学説や新たな定説となった情報を届けるには、古いものをどんどん除籍して、学校図書館に最新資料を整える必要があります。
たとえば太陽系に冥王星が含まれていたり、無毛の恐竜が怪獣歩きをするような図鑑は、果たして学習の役に立つでしょうか?
自分の部屋で電話をするためにわざわざ電話線を部屋に引いて話す、スマホやタブレットが存在しない社会の児童向け文学作品を、今の子どもたちは理解できるでしょうか?ましてや好んで借りてくれるでしょうか?
20年前の四季報を借りて、「あったあった」と就活する学生はいませんよね。
令和になってから市の名称が変更された丹波篠山市は、平成刊行の地図には載っていません。

携帯電話がなかった頃の文化を調べたければ、景気の長期的な沿革を調べたければ、市町村合併前の詳しい地名を調べたければ、学校図書館ではなくまず公共図書館へ当たるのが適当です。
公共図書館には、時代の変遷を調べるための資料が十分に蓄積されています。
…実際は十分にはされていないこともありますが、そうあれとされています。理想です、申し訳ないことに。

とりあえず、資料の代謝(除籍の基準と新規登録の循環)のさせ方は、学校図書館と公共図書館では異なっている、ということをまずは皆さんに知っていただきたいです。
実際の詳しい除籍基準は、全国学校図書館協議会の学校図書館図書廃棄基準を参照下さい。↓

ただ、学校図書館は国から所蔵の「標準冊数」を満たせ(学級数によってこのくらいはいつも所蔵していてね)というお達しもあって、数を割らないように除籍の手加減をした結果、資料の代謝が連綿と、そして堂々と滞っているところが多いというのも現状でもあります。
具体的に学校図書館の全国平均蔵書数と、国の標準冊数のギャップを数値で見てみましょう。

〈全国平均蔵書冊数/文科省指定標準冊数〉
 小 10033冊            小  18学級→ 10360冊(+327)
 中 11323冊            中  15学級→ 12160冊(+837)
標準冊数は平均蔵書数を3桁規模で上回っていますね。
簡単に説明しますと、「この程度の学級数がある学校は、図書館にいつもこれくらいの蔵書が必要だよ」というのが標準冊数です。この数を割ってしまうと「学校図書館はもっとがんばりましょう」となってしまう、そんな感じで理解していただいて良いかなと思います。
しかし実際の蔵書数はどうでしょうか?明らかに足りていません。
ここから更に除籍をすると、ものすごく減ってしまいます。新しく購入して標準冊数を満たすほど補充しようとすると、金銭的にかなり頑張らなくてはいけなくなってしまいます。
図書館の購入予算は限られています。恐らく一般の方が想像するより、ずっとずっと少ない冊数しか購入できません。
「資料が古い!入替えしなければ!でも蔵書数が減る!購入予算がない!だが資料が古い!」
学校図書館は常にこの堂々巡りのジレンマと戦いながら、児童生徒のために新しい資料を揃え、古いものは除籍し、かつ標準冊数の充足に向けて努力しています。

更に付け加えますと、学校図書館でもまず除籍しない特別な資料があります。
それは、その学校独自の資料(学校案内や文集など)と、地域の郷土資料です。これらは一度処分(散逸)してしまうと、まず取り戻せません。校長室にだけ保管されていて、誰も読めないこともありますね。
このあたりは国会図書館であろうと全ては収集できない資料になりますので、かなり慎重に扱っていくべきものです。
たまにうかつな(専門知識のない)担当者によって古いし!と廃棄されていることもあります。
学校司書界隈では「担当者素人か!?」と言われてしまう案件です。
とにもかくにも、学校図書館には常に最新の資料が必要である理由、これが少しでも伝わりますと幸いです。

現在は図書館からも本に関わる仕事からも離れて久しい自分ですが、件の報道で学校図書館が批判的に取り沙汰されるのはあまりにも辛くてこの文章を書いた次第です。

図書館司書は、現状多くが非正規での雇用です。
来年度同じ図書館で勤務できる保証もない状態で、必死に業務をこなしていたのに、異動どころか年度限りで雇い止めされることも多い。

願わくば、図書館司書がいる学校を、どうか応援して下さい。出来るなら、学校図書館に毎日学校司書がいることは当然なんだと、声を上げて下さい。
一人で何校も兼任して、月に数回しか司書が学校図書館に来られない状況をおかしいと思って下さい。
学校司書がいつでも図書館にいないとおかしい、子どもたちは毎日学校にいるのにと、言ってやって下さい。
それが児童生徒の読書体験、ひいては学びに対しての、最良の結果になると私は思います。



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