実は意外と大したことない。スタートアップの現実と数字(カミナシの場合)
ちょっと前に書いたツイートに対して多くの反響をいただきました。
そこで2つのことを感じました。
「サクセスストーリーではなく、苦労話や失敗談を聞くことで活力になったりする場面もある」ということ。過去の自分など特にそうですが、上手く行ってない時ほど誰かの苦労した話を聞くと、「自分もがんばろう!」と思えました。なので、このnoteは順調な方よりも、昔の自分のように苦しい状況にいる方に向けたものになっています。
2つ目は、「みんなリアルな数字を知りたがっている」という点です。
他のスタートアップの話を見ても、「そこが一番知りたい!」と思えるような数字面があまり公開されず、◯倍成長とか、調達額◯◯億円とか...知りたいのはそこじゃないんだよな〜と思っていました。調達額より、その調達を実行できた売上の方が気になりませんか?
世間を賑わすような調達発表を見ると、ただただ「すげえ〜」としか思いません。でも、詳細を聞いてみると「意外と自分たちでもイケるかも!」と思えたりします。
(知りたい人がどれくらいいるか分かりませんが)このnoteでは、カミナシの売上・調達額・評価額などの過去の数字を中心に、どんな軌跡を辿ってきたのか紹介できればと思います。
案外、そんなものなのか〜!と思ってもらえれば書いた甲斐があります。
創業前後(2016年)
一応、一番最初に出資オファーをもらったやつも載せておきます。
2016年秋頃、ちょうど会社を作る直前です。あるアクセラレーターに応募しました。80社ほどが選考にエントリーしており、1次→2次→最終とプレゼンをして最終的に出資のオファーをいただきました。
※当時のサービス名と資料。スマート◯◯が流行っていましたw
この時、チームもなく、当然エンジニアもいないので、プロダクトも作れません。これでは、いくらアイデアが良くてもきっと落ちます。
そこで当時、電気通信大学の情報系の大学院生にFacebook上で声をかけ、名前と写真を貸してもらいました。もちろん、知り合いでも何でもなく、いきなりDMを送りました。
『これに通ったら起業して、本当に仕事お願いできるからいい?』と聞いたら、二つ返事で『いくらでも使って下さい!』と、快く写真とプロフィールをくれました。それがこちらのスライドです。
内容がそこそこ良かったのか、担当者からは『出場チームの中で1番評価した』と言われて出資のオファーをいただきました。参考になる点として、プレゼンスライドだけで出資オファーをもらうことは可能でした。
何もない中での1億円という評価額は、今の基準で見ても良いオファーだったと思います。
最終的にこのオファーは受けずに、借り入れで資金を調達して起業しましたが、出資オファーを貰ったという事実は自信になりました。
その後、電通大の学生3名と業務委託で契約し、本当に開発をお願いしました。
シード期(2017年)
その後、2016年末に起業して、最初のエンジニアを採用して少しずつヒアリングや、プロダクト開発を行っていきました。
2017年中には、VCから調達して華々しくスタートアップ界隈にデビューしたいな...と夢見ながら日々過ごしていました。そんな時に、僕らに目をつけてくれたのが500startups(現Coralの2人がやっていたVC)とBeenext(ALL STAR SAAS FUND)の2社でした。
当時はまだバーティカルSaaSが珍しく、VCからは割と面談のお声がけはもらっていたのですが、その中でもJames、澤山さんと前田ヒロさんは積極的に出資検討をしてくれました。
こうして、僕らは最初のVCからの資金調達に成功します。
売上ゼロ、プロダクトも少し動くプロトタイプ、メンバーも2人だけ...というかなり弱々しい生まれたての子鹿みたいな状態でした。今考えると彼らもよく出資したな〜と思います。
2017年8月頃の話です。今から4年半前ですね。
プレシリーズA(2018年)
とまあ、華々しい?デビューを飾ったものの、最初の売上であるMRR10万円を獲得するまでに創業から1年1ヶ月かかりました。この間、売上ゼロです。親戚一同が会する正月は一年で一番憂鬱でした。みんな商売やっているので、売上聞かれまくるんです。
売上以外のなんか派手な数字を出せればよかったんですが、月の問い合わせも5件程度。一番多くて10件くらいでした。急成長を目指すスタートアップといっても、こんなものでした。
ヒロさんにも、「2018年中にMRR500万円行きます!」と伝え、目標に掲げていたものの、どう考えても達成イメージがわかないような状態。
過去の売上推移
売上の推移とか思い出しながら書いてみたのが以下です。
10月に一気に増えているのは、1社でMRR50万円とか出してくれる会社がラッキーパンチ的に現れて増えたものでした。
SaaS企業の成長で見るキレイな右肩上がりの曲線グラフではありません。
たまに垂直に上がる階段みたいなグラフになっており、これ再現性あるのか...?という感じ。2ヶ月連続で新規受注が取れたら、「マジか!!!凄い!」って感じだったと思います。常にラッキーパンチで獲得できた感覚が消えないんですよね。この階段グラフの悲しみに共感してくれる方もいるのでは!?
この時のイメージがあり、未だに「MRRが獲得できるのは奇跡!」みたいな感覚があります。
ということで、当初はMRR500万円でシリーズAを数億円調達。脚光を浴びるぞ!と思っていたんですが、全然無理そうな事がわかってきます。
シードSaaSスタートアップのあるあるですね。
そうそう簡単にはPMFするプロダクトを作りきるところまでは行きません。逆にシード調達だけで行けたらとても凄い。周りを見てても、プレAを挟むのは普通という感覚です。
話を戻します。
残高も少しずつ減る中で資金調達をしようと500startupsに相談に行きました。
神田のオフィスから近かったので、歩いて大手町にいるJamesと澤山さんに会いに行って、『そろそろ資金調達をしようと思ってるので相談に乗ってほしい』と切り出しました。
断られたらどうしよう...!?と内心ドキドキしながらも、顔は努めて平静を装い、今の状況を簡単に伝えました。特にプレゼンや事業計画を求められるでもなく1時間のMTGは終了。
そこから、10分ほどかけて歩いて神田のオフィスに戻ると、Messengerに一通のメッセージが!
さっき会って、オフィス着いたらこの連絡。これは本当にありがたかったです。ヒロさんからも追加で出資をしてもらい無事プレシリーズAをクローズ。以下のような内容です。
前向きな資金調達ではなかったので、発表はしませんでした。調達したけど、嬉しさはあまりないという不思議な気持ちでした。
ピボット(2019年)
起業してから3年。1.7億円の資金を調達し、グロースを目指して頑張ってきましたが、ダメでした。100万円だった売上も、2019年の約1年でMRRはプラス180万円しか伸ばせず、ピボットを決断。その時の状況が以下です。
ピボットを決めたことをVCにも連絡しました。そこでも「信じてるから!」と言われ励ましてもらいました。なんていいヤツら(親しみを込めて)!ありがたい。
全くチャーンがなく、一定のお客さんには愛されていたのは嬉しい反面、悩みもありました。新しいプロダクトを作るにも、今のサービスをどうするのか?この時に全て終了することも頭をよぎりましたが、背に腹は代えられませんでした。
「この売上があるからこそ、ランウェイも確保出来る!」
出した結論は、「今のサービスは使ってもらいつつ、いつか新しいプロダクトに移行してもらう」というものでした。
この時の売上がなければ、きっとどこかで終わっていたはずです。
リスタート(2019年末)
ここからはピボット後なので、いろいろと話しにくくなってくるんですが、一旦シリーズAまでは書くぞ!という気持ちで続けます。
ピボットしたタイミングで残キャッシュは6,000万円ぐらい。ランウェイは10ヶ月と言ってたみたいです(この辺りの詳細はこちらのnoteに詳しく書いています)
余談です。
当時、自分が下した決断で褒めてあげたいことがあります。それは、現COO河内の採用でした。余裕なんてないので、採用には慎重にならなければなりません(毎回noteで河内のエピソードが出てきますねw)
当時のSlackのやり取りが残っていました。結構カッコいい感じだったので貼っちゃいます(実の弟とお金周りの相談していました。弟は2年ほど一緒にカミナシを手伝ってくれていました。家業を継ぐために昨年卒業)。
当時PMMとして受けてくれたんですが、もし採用するとランウェイも短くなるし、借り入れも必要になる状況でした。ですが、『彼は絶対に必要なので、直感を信じて採用する!』と言い切ってました。
この時の自分、グッジョブ!
一般化出来るかは分かりませんが、ランウェイよりも大事な採用はあると思っています。もしこれを読んでいる方が、今良い人材と出会っているなら無理しても良いかもしれません。一人の存在が全てを変えることもあります。一期一会は大切に。
その後、2020年6月に新しいプロダクトを正式リリース。夏頃には残キャッシュが2,000万円台になっていました。
お金がない!
このままだと底をついてしましますが、まだ新しいプロダクトでの結果も出ていません。このタイミングでは希薄化が大きすぎるので、エクイティ調達は使えません。
このタイミングはデッドでつなぐことにしました。コロナ支援の融資8,000万円を取り付けランウェイを確保。この資金をもとに、成長に向けて少しずつ投資していきました。
シリーズA(2020年12月)
新しいプロダクトの正式リリースから半年ほど経過。
当時の資料見てみると、顧客数は40社ほど、CMRR(受注済みMRR)は300万円ほどだったようです。以前は3年かけて280万円だったMRRを、半年で超えていました。
僕らはシリーズAで11億円を調達しましたが、調達時のCMRRは上記の通り300万円ちょっと。成長率はそれなりに高かったんですが、絶対額で言えば大きくはありませんでした。
今思うと、相当高いバリュエーション・PSRを付けてもらっていたんだなと思います。
「なんで高いマルチプルつけてくれたんですか?」と聞いたところ...
『確かに数字だけで見ると、そこまでは出せないんだけど、それ以外のカルチャーや採用している人の良さ、会社の空気感や勢いなんかが評価の半分ですね〜!』 by 前田ヒロ
と言ってました。ありがたい。
勢いあるな〜という空気、大事。
数字以外の要素、大事。
まとめ
カミナシという会社は、最初の売上の10万円を獲得するまでに1年1ヶ月もかかりました。資金調達をしたものの、中々成長せず3年でMRR280万円しか獲得できませんでした。
なので、起業して1年でMRR100万円あるとか、30社が利用してくれているとか、本当に凄いことなんです。僕らには出来ませんでした。
シードから順調にPMFして、MRR500万円以上の売上を作り、2年でシリーズA。10億円調達する...みたいなストーリーはファンタジーです。出来たら神。いや、もちろん出来る会社もありますが一握りです。もっと時間がかかるのが普通です。シード卒業まで僕らは4年かかりました。
僕の周りには、シリーズAまでに5年以上かかっている起業家や、4つも5つもプロダクトを作り直した起業家がたくさんいます。
そして、そういう人ほど強いプロダクト、高成長を実現しています。彼らを見ていると、起業からどれだけ早く成長フェーズに入ったか?よりも、成長フェーズに入ったあとの伸び率のほうが圧倒的に重要だなと思います。
ということで、もし自信が揺らいだ時には、「カミナシのあの数字よりは全然いいじゃん」と、このnoteを思い出してもらえればと思います。毎月受注が続かないときは僕らの、階段のような売上グラフを思い出してください。
起業家の方、アーリー期のSaaSスタートアップで働いている方にお伝えしたいのは、キラキラ見えても実際こんなものですよ〜ということです。
最悪と思える状況は、いたって「普通」。よくあることなんです。
おわりに
最後まで読んでいただきありがとうございます。最後は良い形で終わっていますが、この話はサクセスストリーとして受け取ってもらいたいわけではありません。
自分自身が「苦労話を読むと元気になる」経験が多かったこと。「細かいリアルな数字が見たい、知りたい!」という気持ちが強かったこと。
この2つの体験から書きました。
昔、諸岡自身が知りたかったことを、カミナシの事例としてオープンに発信していくということは、これからもやれたらなと思っています。よければ、ぜひnoteやTwitterなどフォローしてもらえたら嬉しいです。
細かい数字を出すことを快諾してくれた株主の皆様、ありがとうございます!
※PMF、Go To Marketなどの詳しい話はこちらのPodcastで話しています。今回のnoteと一緒によければ!
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?