100点の意思決定は目指さない。「みんなの意見」に惑わされない意思決定プロセス
カミナシも正社員が30名弱にまで増えました。
全員の意思や力を一つの方向に集中できれば、以前では考えられない程の力を発揮できる状態になりました。
で・す・が!
「みんなの意見」を聞きながら意思統一して物事を決めるということは口で言うほど簡単ではありません。10名前後の時代は、話をするだけで良かったのですが今の規模になるとそう簡単には行きません。僕自身も、日々色々な壁にぶつかっています。
最近の話なんですが、実際、意思決定でしっかりメンバーの意見と向き合うことが出来ずに失敗してしまったこともありました。
【コロナ後の働き方をどうするか?】という重要なテーマについて、経営陣と数名で話して方針を決めてしまいました。すると、メンバーからは「結果については否応ないですが、その過程が開かれていなかったことは残念です。参加したかった」と言われました。
そこで色々な言葉が頭を巡りましたが、「全開オープン」というValueを大切にしている自分たちとしては、痛恨の極み。大失敗。出てきた言葉は「ごめん、自分たちが間違ってました」というものでした。
そんな中で思ったこと、同じ失敗を繰り返さないように改善した施策などを書いてみたいなと思います。まずは、意思決定をする際の難しさと、コミュニケーションの取り方についてです。
"思う"というボールの受け取り方
スタートアップを経営していたり、社内でチームを率いている人たちは、『みんなの意見』という大きな力からのプレッシャーを受けながら、日々意思決定をされているのではないかと思います。これはどんな小さなグループのリーダーでも同じです。
殆どの方は、なるべく多様な意見を聞きながら、正しい意思決定をしたいと考えると思います。ただ、何かを決める際、毎回全員から意見を集めたとしても、難しさは残ります。
例えば、『コロナ後の働き方はリモートか出社か、どちらを選ぶべきか?』というテーマに対して、各個人に聞いたとします。
A「効率性の観点からフルリモートにした方がいいと思う」
B「スタートアップは対面で集まって仕事をするべきだと思う」
どちらも良い意見です。率直に自分はこう思うということを語ってくれているので、参考になります。
ですが、この「思う」というのは案外曲者で、このボールを受け取る側に大きな負担を強いることもありそうです。
「私は●●●だと思います」と言ったときの真意
1.とりあえず、聞かれたから言った
2.意思決定の参考にしてほしいと思ってる
3.意思決定したい
1から3まで「思う」の真意にはグラデーションがあります。これを解釈して、相手の望みを当てるのは大変です。
ここでふと疑問が湧きました。
思う=決めることと同義なのか?そこで、1on1の機会にいつもと異なる質問をしてみました。
1on1での思考実験
具体的には以下です。
1on1のテーマ
「ごーとん株式会社の社長になって考えてみよう」(30min)
- もし経営者だったら、どんな風に意思決定するか思考実験してみよう!
1. afterコロナの働き方はどうするのがいい?
2. 今の組織やカルチャーづくりでは何を優先的にやるべき?
3. 経営目標達成のために、プロダクトで何を最優先にやるべき?
4. 魔法の杖を持っていたら何をする?
5. 既存顧客と新規顧客、皆の意識を一つにすべき?平行すべき?
これまでとは異なり、今回は、「どう思う?」ではなく、「どう意思決定する?」と聞きました。
結果、皆まずは自分が思うことを話してくれます。すんなり出てきます。ストレスなく、自分の意見をスラスラ言えて、話しやすいと言ってました。
一方、「どっちに決めるべき?」と聞いてみると、「難しい」「決めるのが苦しい」という声がありました。特にトレードオフなものや、重要度の高い問題、意見が割れるものなどは顕著です(もちろん、はっきりと「こうすべき」と言う方もいました)。
実際にやってみると、「自分が思ってる方に決めた場合、他のメンバーの意見に応えられない」という状態が頻発したりします。「決める」ことに苦しんでる様子が見えました。
正直、スタートアップはこうした意思決定の雨あられです。既存か新規か?プロダクトの優先度は?制度設計をどうするか?など、かなり速いスピードで色々なことを決める必要があります。
1on1をしながら感じたこと
箇条書きで書いてみます。
・「どう意思決定しますか?」という質問は良い
・「思うこと」と「決めること」の差を認識できる
・思ってること=意思決定ではない
・そこで初めて本当に譲れない「51:49」が分かったり、出てくる
・その差分が、その人にとって本当に大事な本質の場合も多い
上記の場面でも、「自分としてはフルリモートがいいが、会社としては出社も織り交ぜるべきだと思う」という形で、個人が思うことと、会社の方向性で意見が変わるケースも多く見られました。
「思う」ことと「決める」ことの間には大きな隔たりがあります。
●「私はこう思う」
●「私はこう意思決定すべきだと考える」
この意思表示は全く異なるものです。社内のメンバーも、自らの意思を明確に示してくれるような状態になると、意思決定者にとってはすごく健全な状態になると考えています。
『みんなの意見』=曖昧な「思う」の集合体だったものが、「こう決めたい」というハッキリとした輪郭を持ってくるからです。
逆に、社長や経営陣などの「思う」という一言も配慮が必要です。単なる参考意見の場合には、「判断はあなたに任せてますよ!」とあわせて伝えるように心がけています(たまに忘れてしまうこともありますが...(汗))。
透明性の高い意思決定プロセス
さて、今まで書いてきたことは心構えや、コミュニケーションのとり方の話です。大事なことではありますが、「皆で曖昧なボールを投げるのではなく、しっかりと意思表示をしていこうね〜」とだけ伝えても、結果は変わらないでしょう。今回、自分がしてしまった失敗は防げません。
そこで経営としてやるべきことを改めて考えた時に、「意思決定の結果」は全員にとって100点を導き出す必要はない。ただし、100点の「プロセス」は作るべきだなと思い至りました。
とまあ、こんな話を弊社のCOO河内としていたら、彼がすぐに仕組みを作ってくれました。全員が会社の経営課題に参画できる「経営Issue」という仕組みです。運用してみて、効果を感じたのでシェアできればと思います。
経営Issueという仕組み
※Notionで作成した経営Issueのイメージ
カミナシではNotionで経営上の課題を社内向けに公開することにしました。そして、誰でも参加できる毎週1回の会議体で、それぞれのカード(Issue)について意思決定する場を設けました。
河内が作った仕組みで、とても良いと思ったのが、以下の4つの役割です。
1. Owner :最終的な意思決定・説明の責任を負う
2. Member:意思決定プロセスに関わり、実行責任を負う
3. Follower:直接的に関わらないが、Issueの進捗や背景は知っておきたい
4. それ以外:意思決定は完全に預けている&説明も積極的にはなくて良い
メンバーは自分の関わり方をこの3つの役割から選択したり、指名されたりします。Notion上から自らをアサインすることも出来ます。もちろん、誰でも起案出来ます。
ある事柄に対して、皆が考える「思う」にはグラデーションがあると書きました。それを都度確認するのは難しいので、上記の4つの役割で確認できるようになったことは社内の意思決定プロセスの進化でした。
※各役割の詳細はこちらです↓
意思決定者サイドの心理的安全性
当然ですが、意思決定する側もプレッシャーを感じています。人数が増えてくると、多様性が生まれ、何かを決めるときにも配慮が必要になります。
特にSaaSの場合、チームが独立して仕事をしていることが少なく、必ず他チームとの協働が必要になります。そうなると、チームの決定事項が他チームの働き方にも大きく影響を与えます。
その配慮が行き過ぎると安全策を取り、「すべての決定事項を全員で議論する」「意思決定の経緯について全員に説明する」ということになりますが、現実的でありません。
今回の仕組みでは、誰が何に対して興味関心があるのか?その強さはどの程度か?について可視化出来るので、意思決定者も安心してプロセス進めることが出来ます。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「カミナシさんって、オープンですよね」と言われますが、こうした情報発信も理由があってやっています。こうして、自分の失敗と改善を外部発信することで、自分も軽々には忘れませんし、実践し続けようと思えます。
また、外部発信すると周りの方から、「そういう会社」として見られます。これは「B型は、周りの人がその人をB型にしていく」「◯◯さんはB型っぽいよね」と周りから見られていると自然とそういう性格になっていくのと似てると思います。
今回のnoteを出すことで、カミナシが「良い意思決定プロセスを持った会社」に向かって加速していってほしいなと思っています。
後は、シンプルに同じ様に悩む人が多いんじゃないかなと思っています。自分の経営スタイルとして、トップダウンで意思決定して強力に進めていくタイプではありません。「皆どう思うんだろう?」と気になるタイプです。
気を揉むことも多かったので、少しでも役に立てばと思います。
自戒も込めて、万人にとって100点の意思決定は求めなくてもいい。でも、100点の意思決定プロセスを作ることには妥協せずにやっていきます。
いやー、いつまで経ってもその都度、課題が出てきます。最近は、問題は成長するためのエサだと思うようになりました。これからも失敗しながらも、より良い会社や事業を作っていきたいと思います。