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算数はこわくない(遠山啓)の読書メモ〜水道方式について〜

Instagramで幼児教育アカウントをよく見ます。
その中で、水道方式で算数を教えたいというお母さんがいて、水道方式とはなんぞや?という疑問からググった本を図書館から借りてきました。

水道方式とは

以下で引用している文でもあるとおり、「一般から特殊へ」という指導方法のことのようです。本を読むまでは、算数セットのタイルを使った怪しげな教育手法のことかと思っていました。
この指導方法自体は、詰め込み教育からゆとり教育、脱ゆとり教育となった現在も大きく変わってはいないのではないでしょうか。わたし自身はゆとり教育世代ですが、もちろん水道方式という名前は知りませんでした。でも、やさしい一般的な問題から、くりあがりのある特殊な問題を解くというのは授業やドリルやテストでは普通のことでした。
それにしても、この本が刊行されたおよそ50年前…ドラえもんが連載され始めた頃から、ずっと同じようにのび太もわたしも今の子も算数を学んでいるというのは不思議な感じがします。

(算数はこわくない, 遠山啓 p.p.73-74より引用)

[計算の過程を分解する]
料理の研究の例を、2年生で勉強する3ケタの数のたし算にとりましょう。
229+ 209 という問題があります。
この問題の計算の過程を見てみますと、じつは、同じ位の数同士の9+9、 2+0、 2+2 という1ケタの数のたし算に分解することができます。
すべてのたし算にとって、この0~9までのたし算が、料理のイロハ、もっとも基本的な過程になるわけです。ですから、これを素になる過程という意味で、素過程といいます。
さて、この3つの素過程をみますと、9+9にはくりあがりがあります。料理でいうと、くりあがりはオーブンで焼くような、めったにしない料理でしょう。2+0には0があります。なかなか厄介なタマゴを使っているわけです。2+2は、もっとも一般的な料理、ゴハンとミソ汁にあたるでしょう。
これらのことから、3ケタの数のたし算という料理ができるためには、2+2というゴハンがたけ、2+0というタマゴを使うことができ、9+9というオーブン料理を知っていることが必要となります。ですから、
a)素過程ができること。
b)位どりの原理を理解していること。
c)0を理解していること。
の3つが、この計算のための大切な基本になるわけです。

[素過程を組み合わせる]
こんどは、2+2、2+0、9+9などの素過程を組み合わせて、いくつかのタイプの計算問題をつくってみます。料理のイロハから、どんな典型的な料理ができるかを工夫してみるのです。
その組み合わせかたで、3ケタの数のたし算のすべての計算問題は、いくつかの型に分類できるはずです。こうして、もっとも典型的な料理のタイプを考えてみますと、つぎのようになります。

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出典:算数はこわくない, 遠山啓 p.74
(算数はこわくない, 遠山啓 p.p.74-75より引用)

(イ)は、0もふくんでおらず、くりあがりもありません。
(ロ)は、「の位にくりあがりがあります。
(ハ)は、10の位にくりあがりがあります。
(ニ)は、1と10の位にくりあがりがあって、いちばんむずかしい計算のタイプです。
(ホ)は、0をふくんだ計算です。

以上のように、一般的なやさしい料理のタイプから、むずかしい特殊な料理のタイプへと、大ざっぱに5つの型に分類することができました。
このように素過程を組み合わせて、いくつかの典型的な型の計算問題をつくることを、複合過程といいます。この中で (222+222)型をもっとも一般的な標準型として、まずこの料理の練習をするのです。それから、だんだんと型くずれの特殊な料理へと進んでいくわけです。これを「一般から特殊へ」といいます。
この「一般から特殊へ」という筋道が、芸ごとを習うときにも、もっともあたりまえの方法であるはずです。ところがいままでの指導法では、特殊なものから一般へという、逆の方法がとられていたのです。これでは、つまずいてしまう子どもがたくさん出てきても、しかたないことでした。
いちじ「水道方式とはつめこみ主義だ」という、なんの理由もない反対の声がありました。しかし、それは見当ちがいの批判です。なぜなら、つめこみ主義というのは、教える側の教える量も多く、教えられる子どもの側の教えられる量も多いわりに、子ども自身に考えさせることをしない教育法だといえるからです。
ところが、水道方式では、教える側の教える分量も少なく、子どもは自分の力を考えながら、まちがいなく進んでいけますので、これまでのどんなやりかたよりも、つめこみ主義とは縁の遠い練習の方法なのです。
この方式が、なぜ水道方式と名づけられたのかについては、76ページの解説をごらんください。
(算数はこわくない, 遠山啓 p.76より引用)

[水道方式とは…..]
子どもたちの家へ、計算練習の水道をひく計画があります。
①まず、計算問題の水源地をつくるために、水源地には、どんな谷川の水や、滝の水が流れこんでくるかを調べます。計算を、素過程に分解するのです。
②Aの谷川、Bの滝(素過程)から、いちばん一般的な計算問題(水源地)の水を集めます。このことを複合過程といいます。そして練習します。
③水源地の計算問題を終わったら、つぎには、そこから水道管をひいて、くりあがりがあったり、0があったりするふうがわりなタイプの計算問題へと、水を流していきます。
④こうして、ぜんぶの子どもたちの家庭へ、ありとあらゆる計算問題の水が、きちんと分類されて流れていくわけです。

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出典:算数はこわくない, 遠山啓 p.76


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