見出し画像

【書評】政権交代と政官関係の変容/連続 -政治主導はなぜ失敗したか-

山口二郎
「政権交代と政官関係の変容/連続 -政治主導はなぜ失敗したか-」 
担当:kubo


[本書選択理由]
 これまで、官僚の働き方を見てきた中で、政官関係も官僚の個別業務に何かしらの影響を与えているのではないかということが分かってきた。これまでの政官関係は戦後の官僚主導から、民主党政権下での政治主導、そして第二次安倍政権下での官邸主導(協力関係ともいわれた)と変容してきたが、その中で民主党政権での政治主導は失敗に終わったとする見方が多い。そこで今回は政治主導がどのように図られ、どのような結果(官僚への影響)になったのかを見るために本書を選択した。

[要約]
 本書ではまず、自民党政権末期の時期に、政治主導という課題が自民党政権末期の時期に、政治主導という課題が浮上した背景を明らかにしたうえで、民主党が政治主導という問題をどのように設定し、どこに誤りがあったのかを検討し、政治主導が実現するための条件について考察を加えている。
 民主党はマニュフェストにおいて次の構想を掲げ政治主導を公約した(5原則、5策うち2原則、4策が政治主導に関するものであった。)

・政府与党の一元化・各省における政務三役による意思決定・内閣の中枢管理機能の強化及び省庁横断的な政策形成・政策評価 そして実際に次の制度改革が行われた。
・政策調査会の廃止(与党による政府提出法案に関する事前審査がなくなる)
・事務次官会議の廃止、閣僚委員会の設置
・国家戦略室の設置(省庁横断的な政策調整や大きな構想を審議するための機関)
・行政刷新会議(予算の中心に既存の政策や制度を見直す機関)

 この中で山口氏は、霞が関の1府12省体制が永田町の自民党本部に平行移動し、与党の政治化を分断し、各省の利益を擁護する族議員という名の親衛隊を作ったことが、政治主導が発揮されなかった最大の原因であると述べている。政治主導は官僚とけんかをして勝つことではなく、大きな目標に向けて党を統合することであるとし、民主党は政治主導(官僚支配)の本質を的確に規定することができず、制度の変革から始まった政治主導は失敗に終わったとしている。
また民主党政権下では、官僚からの情報提供や助言が、官僚による政治家操作につながることが恐れられ、官僚と政務三役の接触を制限するとともに官僚が対外的に見解を公表することを禁止した。これにより官僚は萎縮し、政策形成に積極的に関与することを避けるようになった。政治指導者が官僚の助けなしに政策形成を行うのは実質不可能に近いので民主党は政治指導者と官僚の適切な役割分担や距離感の確立に失敗したともいえる。

 山口氏は最終的に、民主党がマニュフェストによる政権交代を過度に強調し、政策転換を国民に訴えたこと、政権交代の後に政府、与党の体制整備として政治主導をたらえたことにより政治主導による政策転換が頓挫したと結論付けている。

[批判・感想]
途中で、官僚による情報提供や助言が政治家操作につながるという民主党政権の懸念が記されていたが、これまでの文献などではそこまで(官僚が政治家を言葉で操作しうるという)の力が一官僚にある風には思っていなかった。官僚<政治家ではなく、官僚>政治家という図式がどの程度存在しているのか、また、官僚による政治家操作がどのような実態なのかを次回以降見ていきたい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?