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父との交換日記

子どもの頃、父と交換日記をしていた時期がある。仕事で多忙な父とは親子のコミュニケーションが少なかったため、母が考えついたことだった。

私はこの交換日記が苦痛で仕方がなかった。父が書く内容は硬いものばかりだ。「世の中で一番大切なものは何だと思いますか?」といった父の質問に対して、真面目に返事を書かなければならない。

あるとき、私と友人との間で小さなトラブルがあった。その話を母から聞いた父は、交換日記に「パパはそんな子はキライです」と書いていた。「父は私のことが嫌いなんだ…」と、絶望的な気持ちで読んだことを覚えている。

もしも私が父の立場だったら、絶対にこんなことは書かない。きっと、当時の父は子どもの気持ちを想像することが得意ではなかったのだろう。


私が父を慕い、尊敬するようになったのは社会人になってからだ。初めて働くことの大変さを知り、父の苦労が少しは理解できるようになった。新社会人の私にとって、父は偉大な先輩だった。

当時の私は実家から会社まで車通勤していた。内定をもらった後、父は私のために会社の住所を調べ、通いやすい通勤ルートを調べて教えてくれた。

「入社日までに、出勤時間に合わせて最低10回は通勤ルートを運転して練習しなさい」

大学卒業後の春休み、ペーパードライバーの私に向かって父はそう助言してくれた。父も何度か助手席に乗り、私の練習に付き合ってくれた。

入社予定の会社は父の職場から比較的近く、父には自分の職場近くで車を降りてもらい、そのまま出社してもらった。私の練習に付き合うことで、父は普段よりもかなり早い時間に出社していたはずだ。

父のおかげで、私は入社直後からスムーズに車通勤ができた。父も仕事で多忙だったはずなのに、社会人になる私のために時間を割き、精一杯応援してくれていた。

幼い頃、父は私のことが嫌いなのだと本気で思っていた時期もあったけれど、それは間違いだった。


自分が親になったいま、考える。私は子どものために何ができるだろうか?何を残せるだろうか?

両親がしてくれたように、私も子どもにめいいっぱいの愛情を注いでいきたい。交換日記の件は、反面教師とさせてもらうことにしよう。

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