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【戯曲公開記念その1】公開にあたって

お久しぶりです、カミグセのつくにうららです。
突然ですが、カミグセ過去作品の戯曲をWEB上にて無料公開することにしました。
今回なぜ無料での公開を行うことになったのか、いくつか理由を紹介してみようと思います。
また、今後こちらのnoteにて、各作品の紹介や、創作時のエピソード、比較的どうでもいい話などを順次公開予定です。

いままでカミグセの戯曲はどうやって売られていたか

これまでカミグセでは、終演後のグッズ販売の一環として、「上演台本」という形で戯曲の販売を行っていました。
カミグセはWEBショップなどを開設していないため、公演会場まで足を運んでくださった方のみご購入いただけるシステムです。

上演台本の販売は「公演をご覧いただいたお客様へのお土産」「観劇後に解釈を深めるためのガイドブック」といった具合に、「観劇してくださった方向け」としての意味合いが強く、お土産としての価値・コレクション欲を少しでも高めるべく、デザイナーにオリジナルの表紙を毎回作ってもらい、手製本で販売していました。

しかしながら、近年はカミグセの公演回数自体が減少、更に2019年8月に上演した「カミグセ短編集vol.2」の上演台本は関係舎の辻本直樹さんに製本をお願いしたところ大好評となり、公演千秋楽に売り切れとなりました。
大変ありがたいことですが、これは同時に、「わたしの作品を今後新たに読んでいただける機会が限られてしまう」、ということでもあります。
(ちなみにわたしの倉庫の収納量にも限度があるため、基本的に売り切れた台本は全て増刷せず絶版という形をとっています)

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(写真:今までのホチキス製本からグレードアップした、
辻本さん作の販売用上演台本)

カミグセの戯曲を上演してくださった人たち

さて、こんなふうに「公演を観に来ないと台本が買えない」という状況の中、2つの高校の演劇部と、その中から立ち上がった有志の高校生団体によって、計3作品がわたしの手を離れて上演されました。
正直、この3つの上演が無ければ、今回の戯曲無料公開は無かったといっても過言ではないほど、わたしの考えを改めさせてくれたきっかけになっています。

「みんな、上演できる戯曲を探しているのかもしれない」

そんな気持ちが芽生えた3作品をご紹介させてください。


①六本木高校演劇部による『砂埃立つ、遠き水辺で』(2017年)
当時六本木高校の演劇部に所属していた子と交流があり、そのご縁で「カミグセ短編集vol.1」を観にきてくださったのでした。
その折に上演台本を読んで気に入ってくれたようで、高校演劇の合同イベント(わたし、高校演劇まったくの未経験者なのでこのあたりよくわからない・・・)で『砂埃立つ、遠き水辺で』を上演してくれました。

わたしの戯曲を他の人(それも高校生!)が上演するのは初めての経験、しかもこの作品は(いずれ別記事でレビューしますが)とにかく「上演が難しい」というわたし自身ですら苦心した作品でしたから、公演当日、客席でなぜかわたしの心臓が口から飛び出しそうだったのを覚えています。

あと、終演後に直接演出家の子と話せなかったので感想をTwitterのDMで送ったら書くのに2時間かかりました、いま見返すと本当に長い、ごめんね。


②岐阜総合学園高校演劇部による『SとNの間の香り』(2018年)
これは本当にびっくりしたのですが、2016年に『SとNの間の香り』を再演した際にWEB上で無料公開していた初演版の前半部分の戯曲を、たまたま岐阜総演劇部の部員さんがWEB上から探し当て、「続きを読みたいので戯曲を買わせてください」と顧問の方を通してご連絡をいただいたのでした。
まさかそんなことがあるとは思っていなかったので、当時は喜びと驚きでちょっとどうにかなりそうでした・・・。
その後、初演版と再演版の両方の戯曲をご購入いただき、それを部員の方が潤色、わたしが最終校正をして岐阜総用『SとNの間の香り』を作りました。

しかも、岐阜総はいままで、ままごとの柴幸男さんや渡辺源四郎商店の畑澤聖悟さん、趣向のオノマリコさんの作品などなど、わたしからしてみれば大御所といえる方々の作品に取り組まれており、そんな中でわたしの作品を気に入ってくださったわけですから、岐阜に行く前に既に心臓が口から・・・そう、顧問の先生からも驚かれたのですが、岐阜まで本番を観に行きました、夜行バス乗って!!!!!だって気になるから!!!!!

さて、この作品、普通にやると再演版で約80分ほどかかります。
高校演劇のちゃんとした大会は制限時間が60分と聞いていたのですが、どう考えても全然収まりません。
会場のホールの壁にはありがたいことにデジタル時計が。緊張だけがただ煽られます。
開演と同時にわたしの心のストップウォッチもチチチチチチチチ・・・と鳴り始め、「○○分で△△のシーン、よし、ギリセーフ」といった具合に、原作者ゆえ「何分頃の段階でこのシーンを終えてないとまずい」というのが一瞬でわかってしまい、最後の方はもう手汗がびしゃびしゃでした。
でもちゃんと収まりました、いやよく収まった、すごいな高校生・・・。

終演後、ロビーで待っていると20人強の部員のみなさんが挨拶にきてくださいました。(持っていったお土産足らなかった)
原作者がこうやって観に来ることはなかなか無いとのことで、大変喜んでくださり、さらに時間のある子とは次の大会での上演に向けて改善点などを一緒に相談しました。
また、この戯曲を見つけた子がとても作品を気に入ってくれ、部活で上演を熱望し今回の実現に至った、という話もお伺いしました。

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(写真:思ってたより全然大所帯だった演劇部のみなさん)

もしこの時、部員の子が「SとNの間の香り」の前半部分のデータをWEB上で見つけてくれていなかったら、岐阜の高校生との出会いは無かったわけです。
正直、この段階で「戯曲のWEB公開」に対するわたしの考えは、かなり大きく方向転換をしていました。

とりあえず、あまり長居もできないし(帰りも夜行バスだからね!!!!!)、演劇部のみなさんには「演劇も楽しいけど、やりすぎないでプールとかお祭りとか行きなよ!夏満喫しなよ!」という、大変無責任な言葉を渡して帰りました。


③シュレディンガーの女子高生による『タナトスのガールフレンド』
『SとNの間の香り』を上演してくださった岐阜総演劇部の有志4名によるユニットの、高校卒業記念公演にて『タナトスのガールフレンド』を上演していただきました。
まさか、夏の『SとN〜』上演後もご縁があるとは思っておらず、「卒業公演でカミグセの作品をやりたいのですが、短編作品はありますか?」と部員の子に聞かれ、メンバー構成などを聞いてオススメを提案、そして高校生でも出来そうな女の子ふたり芝居、ということで「リーディング版」として書き直した『タナトスのガールフレンド』の戯曲を使っていただくことになりました。

『タナトスのガールフレンド(通称「初演版」)』は『Re:タナトスのガールフレンド(通称「再演版)』も含め3パターンの戯曲が存在しています。そして「リーディング版」は初演版と再演版のあいのこ的立ち位置にあります。
ただし「リーディング」の為に書いた戯曲ということで、実際に演出をつけて「立って上演したこと」はありません。
また、リーディング用にテンポアップを図るため、ト書きを最小限に留めています。
ですから、高校生たちには台詞だらけの戯曲を読み解き、ト書きに書いていなくても必要なものを集め、自分たちで演出を考えてもらいました。
たしか、「卒業なんだし好きにやっていいよ〜」と、大変呑気なことを言った覚えがあります。原作者はいつだって無責任である。ごめんね。

こちらは不安とかではなく、卒業のお祝いも兼ねて、原案の辻本直樹さん(関係舎)と一緒にまたしても岐阜まで観に行きました、わたしだけ夜行バスで!!!!!(辻本さんは行きは新幹線、帰りは一緒に昼行バスでした)

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(写真:卒業おめでとうガールズ&原案お兄さん&わたし)

戯曲を読みたい人は結構いるらしい

その後、2019年より、わたしの大学からの友人であり、カミグセにも度々出演してくれている星秀美が「読み合わせカフェ」というイベントを立ち上げました。簡単にいうと、「人と戯曲の読み合わせができるカフェ」です。
わたしも戯曲の提供に協力させていただき、読み合わせに時間のかからない短編数作を常時置いていただいています。
(長編の抜粋を置いている作家さんも多数いらっしゃるようなのですが、わたしの作品は自分でもビビるぐらい抜粋しづらいので、フル尺で読めるものに限定して置いてもらっています)

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(写真:読み合わせカフェのロゴ)

さて、こちらの「読み合わせカフェ」、わたしは読み合わせはしないのですが、たまにそっと隅のほうでジュースを飲んでいたり、座学講座の講師として戯曲読解について紹介したりと、何度か足を運んでおりますが・・・

みなさん、本当に熱心で楽しそうに戯曲に触れていらっしゃるんです。衝撃を受けました。
読み合わせる戯曲を手に取る理由は様々ですが、わたしが考えていた以上に戯曲、というか「演劇そのもの」を身近で手軽なコンテンツとして楽しみたい方が多かったようです。
またその中には、現在プレーヤーとして演劇に関わっていらっしゃる方も混ざっていることがあり、「まだ見ぬ作家との出会い」を探しに来ているような方も見受けられました。

何かの戯曲を手にとり読んでみる、ということが、演劇の実体験の第一歩という観客的観点からも、この先自らが取り組みたい戯曲/出演したい作家を探すという実演家的観点からも、この取り組みはたくさんの方に有意義な時間を提供したに違いないと考えます。
・・・というようなことを、読み合わせカフェの隅っこで、みなさんの読み合わせを背中で聴きながら思っていました。

5月30日現在、新型コロナウイルス感染症拡大予防の観点より、カフェの開催は一時見合わせられていますが、再開した際にはぜひ足をお運びください。

とりあえず、気軽に考えてみることにした

そんな紆余曲折を経て、

「いままでお金を払って紙の上演台本を買ってくれていた方がいるのに、いまさら無料で公開するのは失礼じゃないか?」
「無断転載、無断使用されたらどうしよう」
「そもそも上演自体を観て欲しいのだから(それ故に映像販売・配信が一切ありません)、戯曲をアーカイブ化する必要性はあるのか?」
「っていうか、わたしの戯曲読みたい方、いますか?」

という気持ちは、

「そもそも絶版が増え、公演回数も減っている中で戯曲の入手機会自体が減っている」
「無断転載・無断使用はどこまでも追いかけろ」
「映像配信はやはりしたくない(この話はまたいつか)けれど、カミグセの作品を知りたい方は少なからずいる」
「上演できる戯曲を探している方たちに届けるなら、WEBで誰でも読める状態が望ましいのでは」

というところまでやっと変化しました、ここまで2年かかりました。

特に高校生たちがわたしの手の離れたところで作品を上演してくださったことで、「自分から他者のところへ作品が旅立つ」ような感覚に面白みを見出すことが出来るようになりました。きっとこれが決め手です。

まずは読んで、ちょっとでも面白いと思ってくださったら、またはいろいろと考えること、思いを馳せることに繋がれば幸いです。わたしの戯曲は決してわかりやすい作品ばかりではありませんし、コメディでもありません。
ただ、「何かを考える時間」になれば、と思って作品をつくっていることだけは確かです。
気に入らなくても気にしないでください。
でも、もし気に入ったら、たくさん読んでください。

そういうことで、カミグセ旗揚げから全部、とはいきませんが、2016年以降にカミグセの名義で上演した作品の戯曲を無料公開致します。

もし良ければご支援をいただけますと幸いです! 貯金が貯まると、公演など、何かしら出来るかもしれません...