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その本をわたしは知らない。

「子どもが本を読まないんですけどおすすめの本ってありませんか?」

図書館のカウンターにいると、こんな質問をいただくことがある。この質問は、実は二つの問からなっているのだけれど、今回は後半「子どもにおすすめの本」という問に対して答えていこう。前半は改めて書こうと思う。

「子どもにおすすめの本を教えてほしい」

その問に対して、図書館員の多くは内心「ここにある本全部」または「そんなものはない」と答えたいに違いない。図書館にある本は全て、来館者に読んでもらいたいと思って揃えているのだから、全部「おすすめの本」だ。そして、どれもがきっと、あなたのお子さんにおすすめの本とは言い切れない。それでも、そんなことを言うわけにはいかないカウンターに座る図書館員たちは、笑顔でこう言うだろう。

「お子さんはおいくつですか?」

「え?本のタイトルを教えてくれるわけじゃないの?」

そう思った方もいるかもしれない。でも考えてみてほしい。先程の質問では、情報量が少なすぎるのだ。ただ「子どもにおすすめの本」と言われても、その子が未就園児である場合と小学校六年生である場合では明らかに選ぶ本が変わってくる。年齢が分かれば、まず絵本をすすめるべきか児童書をすすめるべきか分けることができる。これで選択肢はおよそ半分に絞られたと言える。子ども向けの本には、裏表紙に対象年齢が書かれているものも多いので、その中から選ぶこともできる。

図書館員はさらに質問を重ねてくるだろう。

「男の子ですか?女の子ですか?」

「どんなことに興味がありますか?」

最近では、男の子だから恐竜や昆虫、女の子なら登場人物が可愛いもの……というような雑な案内は少ないはずだ。けれど、これまでの経験上、性別からくる大きな傾向があることは否めない。また、興味があることが分かれば似た傾向の本を案内することもできる。
例えば「プリンセスが好き」という子なら「魔法つかい」の出てくるような話は、割と受けが良いように思う。好きな動物がいる子ならその動物がでてくるような本、自動車が好きという子なら自動車の出てくる本……という具合で案内をすることができる。
もちろん、この程度ならおうちの方も、その分野のある辺りの棚を探しているるはずだ。しかし、意外なところにある本の中に、お子さんが好きなことが書かれていることもある。それは図書館に勤めている司書だからこそ見つけることができるかもしれない。

けれど、実はこれらよりももっと重要な質問がある。

「普段どのくらい本を読みますか?」

という問だ。

普段本を読むか、読まないか。この質問は、図書館員にとってかなり重要な情報だと言えるだろう。普段から本を読んでいる子どもと読んでいない子どもで、紹介する本の面白さに差をつけたいわけではない。本に触れているか否かで、その子が「どれくらいのレベルの本を読めるか」というのを確認しているのだ。

何を当たり前のことを……

そう思った人もいるかもしれない。
しかし、「普段から本を読んでいる小学校三年生」と「国語の授業くらいしか文章を読んでいない小学校三年生」では、読める量に大きな差があるのだ。普段から読んでいる子の中には、小学校一年生でも、薄くて文字が大きな児童書なら読むことができるという子は少なくない。小学校三年生となると高学年向きの分厚い本をスラスラと読めるという子もいるだろう。実際わたしの知っている少年は、小学校三年生になる前にハリーポッターのシリーズを全部読破した。その子は、毎日のように図書館にやってきて、一人で座り込んで長い時間本を読み続けるような子だった。
けれど、「文章を読んでいない小学校三年生」となるとそうはいかない。文字の大きな児童書はおろか、ひどい子になると絵本を一人で読むことができない子だっている。そんな子にはとてもじゃないけれど、児童書をすすめることはできない。すすめたとしても、その子がその後読書好きになって図書館の常連になってくれる見込みは少ない。そんな子には、まず絵本の読み聞かせから始めてほしい。おうちの方と一緒に、声に出して本を読むことをおすすめする。

さらに難しいことに、人気がある本だからといって、必ずしも全ての子どもが好きだとは限らない。わたしの知り合いのお子さんは、今子どもたちの間で大人気の探偵ものの児童書は全く読まなかったと言っていた。

「子どもにおすすめの本を教えてほしい」

聞いてきたおうちの方は、軽い気持ちで相談してくださったのかもしれない。しかし、図書館員にとって、これほど難しい問いはない。けれど勘違いしないでほしい。図書館のカウンターに座っている人に質問をするなというわけではない。難しい質問ではあるけれど、同時にとても答え甲斐のある質問でもあるのだ。
わたしたち図書館員は、たくさんの人の手によりその人にぴったりな本を手渡したいと思っている。そして、本を読んで「この間紹介してもらった本、面白かったよ」と言ってもらいたいのだ。何より、図書館に来てたくさんの本を読んでほしい。そう思っている。

「子どもにおすすめの本」


それを知っているのはきっと、図書館員ではなく、子どもたちを側で見守っている人たちなのだと思う。わたしは、これからも「おすすめの本を見つけるためのお手伝い」をしていきたい。

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