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うらんぼんの夜(川瀬七緒著)感想 ネタバレなし

うらんぼんの夜を読みました。
やばい。めちゃおもしろかった。徹夜した。
このnoteではネタバレはしません。

以前は本屋に立ち寄ってふらっとジャケ買いとか知らないレーベルを買うとかやっていたんですが、最寄りの本屋がガチの売れ筋しか置かなくなってしまったため、百合漫画オタクの私としては気まずいプレイスになってしまったんですよ。

で、そんな文化的に死にかけのオタクが普段行かない本屋に立ち寄って、表紙で「SUKI……」と一目惚れをして思わず手に取り「SUKI!」とあらすじを読んで気がついたら買っていたのが本作です。財布の中2000円しか入ってなかったので1760円はちょうどよかったです。
マーベラスオブマーベラスな天才の所業である表紙と出版社のサイトに出てるあらすじがこちら。帯をよく読んでおいてください。テストに出ます。

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片田舎での暮らしを厭う高校生の奈緒は、東京から越して来た亜矢子と親しくなる。しかし、それを境に村の空気は一変し、亜矢子の口数も少なくなる。疑念を抱く奈緒は、密かに彼女の自宅に忍び込もうとするが……。書き下ろしミステリー。

閉ざされた集落と旧態依然とした長男優先の価値観、圧倒的お年寄り。そんな中に高校デビューのJKと都会から来たJK。そう、こういうの大好きです。意味不明な儀式とかあったらもう動悸息切れしそうなくらい好き。えっ? なんと本作には意味不明な儀式はもちろん搭載済みだって? 天才なの?
クローズドサークル、ミステリーでは鉄板オブ鉄板の設定ですよね。

ともあれ、これ多分令和が舞台の作品なんですよ? ヤバない? 一体どうやって閉ざされた集落を表すんだろう? まずそこから不安と期待で胸がいっぱいです。なぜなら現代には全てのアリバイ系情緒をBANしてしまう携帯電話が存在しているからです。本作では主人公が夏休みに家業の手伝いでガチの農作業をしながらスマホで英語を聞いている描写があります。
そう、英語なんです。クソ田舎ではほぼほぼ使えなくてもいけそうな英語が彼女は好きで、勉強するときもだいたい英語。

そして、閉ざされた集落の表現があまりにも好き。どうしてたかというと、(まあ現在で言えば大変おなじみの例の)「ウィルスが都会で猛威を奮っているけど、我らが集落には罹患している人間がいないので、誰もマスクをしない」という設定です。

これめちゃくちゃ怖い設定で、排他性と悪いことは全部外から入ってくるという集落の人たちの認識が一発でわかってしまうんです。この集落は閉ざされた集落ではあるんだけども、それ以上によそものに門戸を閉ざしている、他者を拒絶した集落ということなんですね。だから、スマホが通じても役には立たない。こわ。

読み進めていくと、とにかくこんな田舎から出ていってやると静かに闘志を燃やす(そのために勉強を頑張ってるというのが等身大に出来ることをやってる感があっていい)主人公と他の登場人物との断絶を叩き込まれていきます。
曾祖母、祖母、別の集落から嫁に来た母、己れの不機嫌で家中をコントロールする父、信金に就職して家業の手伝いも特にせず、集落内付き合いとしての祭りの手伝いとかする体面保持のうまい兄。
謎の地蔵の周囲を監視するBBA、集落内を回っては噂を触れ回る人力高速インターネッツBBA、攻撃的徘徊GGI、空気読めない田舎のギャル。失敗した新興住宅地。その他その他。
ほとんど誰にも主人公の気持ちはわかってもらえない。こんなのおかしいよ、っていう声は子供が何いってんだと一蹴されてしまう。とにかく断絶につぐ断絶で、こんな集落マジ燃やしたれよとこっちが思うくらいに。

そんな中、東京から訳ありで引っ越してきたシャレオツなご家庭の、お嬢さん。前髪が薄い、など今風の描写がわかる〜ってきもちになります。問答無用に美少女。ポカリのCMに出るには少し影があるかもしれないけど。表紙イラストは作中の描写とちゃんと合っています。表紙向かって左のお嬢さんですね。こんなの主人公からしたら好きになっちゃうよね〜。
さて、ここから主人公とこの二人を表す表現はおそらく「共感」主人公からは「憧れ」だと思います。

読み手は断絶と共感、憧れというほぼ真反対の概念をどんどん刻まれていきます。読み進めていくと、この断絶は一体何なのだろう? と不思議に思うはずです。
基本的にしきたりというのは、昔の成功体験を継いで、いつしか多少不条理な習慣となっているものもあると私は考えています。ご先祖がこうして成功したんだから同じようにすれば成功するんじゃないかというあれです。
この集落では、お地蔵様を祈ることで何らかの救済があると言われています。願うたびにかけられた前掛けでお地蔵様が埋もれてしまうくらい、お年寄りたちに大切にされています。

ではこの集落の謎のしきたり、謎の儀式は一体何のために始まって、なんのために続けられてきたんでしょう?

本作は誰もがぱっと想像するような、ありがちな閉ざされた集落で起こる悲劇の話ではありません。ありふれた悲劇ではあるかもしれませんが、だからこそ読み手は世界がぐるっと廻るような気持ちを味わえるでしょう。

全てのピースが綺麗にハマった瞬間、のこる後味の背筋が凍るような気持ちとニヤリとしてしまう思いをするでしょう。
私はラストシーンで「やられた! さいこう!」って頭を抱えました。
ぜひ、読んでほしい一冊です。すき。

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