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人の手が持つ力を思い知る、タイの紙作り体験

手仕事の現場に足を運ぶ度、人の手で作る意味を考える。
機械で作った方が効率よく、均一なものを作れる。誰もがそれを知っている今、どうして、わざわざ、手で作るのだろう。

△この写真は、タイの第2の都市チェンマイから車で40分ほど離れたところにある紙工房で撮ったもの。
工房では、月曜日から土曜日まで 二、三人のスタッフで紙を作っている。


タイの手漉き紙

Saa あるいは Mulberry と呼ばれる植物を原料に作られた、凹凸のある柔らかな紙。
Saa paper という名前で、タイの至るところで売られている。


今回、この工房で紙を作る体験をさせてもらった。
原料の加工の仕方を教えてもらい、漉き方(※)のお手本を見て、2時間の体験時間内で好きなだけ紙を作れるというプラン。

※「漉く」とは、水にとかしたどろどろの原料をすくい上げて薄くひろげ、乾かして紙や海苔(のり)を作る動作のこと。 日本の紙漉きは大きな容器に原料を拡散させ、木枠ですくい、揺すって平坦にする。この製法は「流し漉き」と呼ばれる。

△日本の一般的な漉き方「流し漉き」


一方、タイの昔ながらの作り方では 水の上に枠を置き、その中に原料を入れて かき混ぜたり表面を均(なら)したりして、引き上げる。

日本のように枠を動かして作る「流し漉き」に対して、こちらは「溜め漉き」と呼ばれている。


紙漉きを体験してみた。

「溜め漉き」での紙作りを初めて体験してみて、今まで味わったことのない感覚に衝撃を受けた。
それは、「紙の繊維に触れている…!!」という実感。普段はシート状というか「平面」として捉えている紙が 一本いっぽんの繊維からできていることを、身体を通して感じた。

△指先で紙の繊維を感じて、思わずニヤケている瞬間

△水の中で、ただ浮遊している繊維が乾燥したらくっついてシートになるのが不思議でしょうがない。糊を混ぜてるわけでもないのに!


そう、それで、今、この体験を書きながら、「手で触れて、初めて実感できることがある」と気づいた。
お手本の漉き方を目で見ただけでは、感じられなかった。出来上がった紙に触れただけでも、知れなかった。

自分の手で作ってみて初めて、紙が繊維の結びつきであること、こうして「できている」ということを、体感した。

この日 紙漉きを一緒に体験した方は もう5回も体験されていて、「ヒーリングのよう」と仰っていた。
紙の繊維の流れや 濃淡を感じて、無心になるらしい。


人の手で作られたもの。
そこには、作った人の身体的感覚が宿っている。その感覚は、 作り手の心や感性に少なからず影響を与えているように思う。

これが「手仕事の意味」になるのかどうか分からないけれど、手仕事をなくすことは、人が身体で感じ取れる機会を失うことに繋がる。

わたしは、「身体で感じる」その力を見くびっていた。この手は、指先は、ものすごい感覚を持っている。

そんなわけで、チェンマイにお越しの際は ぜひ体験してみてください!
たゆたう紙の繊維に触れてみて!


【工房紹介】

HQ paper maker
日本人のおじさんが運営されてる紙のショップ。チェンマイ旧市街にある店舗で紙漉き体験の予約可能。送迎付き、所要時間4時間、800バーツ。


△工房の庭で摘み取ったばかりの花を漉き込んで作ります。鮮やかできれい!


詳しい製法

紙を作られる方向けに、製法や原料について詳しく書いた記事はこちら。

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こんにちは、kami/(かみひとえ)です。いただいたサポートは、「世界の紙を巡る旅」をまとめた本の出版費用に充てさせていただきます。今年の12月に発売できる…はず…!